税界展望

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東京税理士会役員選挙規則の一部改正について

(第596号掲載)

 去る6月19日に京王プラザホテルにて東京税理士会総会が開催された。例年通り、執行部提案の全5議案が原案通り賛成多数で承認可決された。

 第3号議案として「役員選挙規則の一部改正承認の件」が上程されていた。内容としては、会長に立候補する者は50名以上100名以内、副会長に立候補する者は30名以上50名以内の推薦人を立てなければならないというものだ。従前は、会長は30名以上50名以内、副会長は20名以上30名以内であったので、相当な増員となる。改正の趣旨は、推薦人制度が平成24年に新設されてから11年経過し会員数が増加していること及び立候補者の資質を担保し、立候補要件をより厳格にするため、推薦人数を増員したとのことだった。

 総会において議場の会員から「推薦人制度が新設された理由と会員数2割アップに比して推薦人の増員数が見合わないと感じる。これからの会を牽引しようという新たな人材の立候補を妨げるものではないか」という趣旨の質問があり、執行部からは「会長、副会長は多くの会員に支持されていることが必要だから創設された。その創設理由の厳格性に重きを置いて推薦人の人数を検討した」と回答があった。

 改正の趣旨を検証すると、まず、会員数についてであるが、会長候補に限ってみれば、会員数増加率2割に対し、推薦人の増員は下限が6割強、上限が10割も増えている。会員数増加が推薦人をこれほど増員することの理由というには説得力に欠け、牽強付会も甚だしい。

 次に、立候補者の資質を担保し、要件を厳格化するためとのことだが、質問した会員の言うように、新規に立候補しようとする会員に殊更高いハードルを課し、出鼻をくじき立候補を断念させようとするものでしかない。推薦人制度の創設理由が会長・副会長は多数の会員の支持が必要ということでそれを重視しての改正ということだが、それは正に選挙を通じて会員からの投票によって判断されるべきものであり、事前に足枷を嵌めるべきではない。立候補者の資質についても全く同じことが言える。また、支部の役員選挙において推薦人は立てられないこととの整合性についても疑問が残る。このような改正案が理事会の審議を経て総会に上程されてしまうことは、理事会が機能不全に陥っていることの証左ではなかろうか?理事会の活性化も必須である。

 会員は強制入会制度により東京税理士会に所属している。税理士制度や税制など会員を取り巻く環境を改善するためには、会員の意見を反映させてくれる会長が必要であり、その会長を決めるのが役員選挙であるはずである。選挙によって選ばれた会長は、会員の代表者となる。したがって、その選挙された代表者が職務を行うに当たっては、当然に、一部の代表としてではなく、すべての会員のために会務運営を行うことになる。選挙とは、会員の代表を選び会員の意見を会務に反映させるためのものである。そのためにも、会員一人ひとりが選挙に関心を寄せることで、選挙はもっと身近なものになると言える。したがって、選挙における投票行動は、会務参加への第一歩なのである。殊更、選挙を避けようとすることはその会務参加への入口を一つ塞いでしまうことになっているのではないだろうか?東京税理士会は会員が主権を持つ民主的な運営をしなければならない団体である。役員選挙は、一般の会員が会務に参加し、主権者としてその意思を会務運営に反映させることのできる最も重要かつ基本的な機会である。

 選挙は民主的な開かれた会務の基本であり、根幹部分である。近く導入されるであろう本格的なネット投票が有名無実なものになってしまわないよう、立候補を希望する会員が不必要なハードルがなく立候補可能な選挙制度となることを願ってやまない。多岐にわたる事業を行っている東京税理士会の会務運営には多くの会員の協力が欠かせない。そのためには、より開かれた会務運営を目指すべきである。

『展望』 Newest article

日本経済動向と消費税増税の因果及びインボイス制度開始への思い

(第575号掲載)

 6月2日、米電気自動車大手テスラのCEOイーロン・マスク氏が「経済環境について、とても悪い予感がする」として、新規雇用の中止と人員削減の必要性を幹部社員に示した。翌日の株価急落を受けて、翌々日には撤回するような姿勢を見せたが、同じような考えを持つ経営者は多いだろう。新型コロナやウクライナ侵攻から派生した問題等が絡み合い、世界経済の回復力は低下している。日本もその例外ではなく、小さな負荷が日本経済の思わぬ衰退を招く可能性も考慮すべきだ。

 日本経済衰退の歴史は、消費税増税の歴史と重なる。消費税の創設はバブル経済真っただ中であったため負の影響はかき消されたが、バブル経済をハードランディングさせた後、不況下で行われた1997年の5%への増税は、今日まで続くデフレ経済がスタートする契機の一つとなった。2014年の8%への増税では、リーマンショックによる不況以来のマイナス成長(▲0.4%)となり、2019年景気後退局面での10%への増税では、新型コロナウイルスの影響も重なって前回増税時を超えるマイナス成長(▲0.7%)となった。

 消費税増税は今の生活を直撃するだけではない。一生涯の可処分所得がその分減るのである。過去に貯めた預金の価値さえ強制的に減ってしまう。理性的な個人は、将来の負担増に対応し、消費を先延ばしする。その行動は褒められこそすれ、責められるところは微塵もない。しかし、その行動が日本経済を停滞させてしまう。個々人の正しい行動が、望まない結果に繋がるのであれば、それはシステムに問題があると言わざるを得ない。

 来年10月にはインボイス制度が始まる。既に大企業による免税事業者排除の動きが顕在化しており、やむを得ず課税事業者を選択する中小企業にとっては大きな増税となる。その影響はそこで働く従業者の生活を直撃し、これもまたデフレ不況を深化させる。 繰り返される悪手に対して、政治家が悪い、官僚が悪いというのは簡単だが、問題の原因を他人に帰すると、人は思考停止になる。政治家、官僚、国民がそれぞれの善意に従って努力した結果、今の日本がある。問題は人ではなく、為政者と国民の分断である。国民が為政者に寄り添うべく、投票だけではない、国民の政治参加が重要性を増している。

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「デジタル化に向けて税理士はどうするべきか?」

日本大学教授・税理士 阿部徳幸(あべのりゆき)

(第585号掲載)

1.はじめに

 令和5年度税制改正の一環として税理士法の改正もなされました。そこでは2条の3として「税理士の業務における電磁的方法の利用等を通じた納税義務者の利便の向上等」が新設されました。

 この新設は、デジタル社会形成基本法16条「事業者の責務」、すなわち「事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に関し、自ら積極的にデジタル社会の形成の推進に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施するデジタル社会の形成に関する施策に協力するよう努めるものとする」を受けて、税理士・税理士法人(以下単に「税理士」ということにします。)が今後、取り組むべき方向性を明確にするため[i]とされています。

 この規定はいわゆる努力義務規定ですが、今後の「税理士の業務」にどのような影響を与えることになるのか、その概略をここでは考えてみることといたします。

2.「税理士の業務」と税理士を取り巻く環境

まず税理士法のいう「税理士の業務」規定を確認してみます。同法2条1項は「税理士業務」をして、①「税務代理」、②「税務書類の作成」、そして③「税務相談」をいいます。そしてこの「税理士業務」は、同法52条「税理士業務の制限」により、税理士の「無償独占業務」とされています。また同法2条2項は、税理士業務に付随した会計業務を、そして3項は「所属税理士」をそれぞれ規定します。そして同法2条の2は、いわゆる「出廷陳述権」、「補佐人」規定です。さらに今回2条の3が新設されました。

 最近の税理士を取り巻く環境を概観すると、2021年に国税庁は「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション‐税務行政の将来像2.0‐」を公表し、同年9月には、先のデジタル社会形成基本法が施行され、また2023年10月からは消費税におけるインボイス制度が動きだそうとしています。さらには納税環境整備としての「記帳水準の向上に資するための過少申告加算税・無申告加算税の加重措置の整備」をはじめ、記帳水準の向上に向けた取り組みが随所に渡りなされています。そしてわゆる電子帳簿保存法(以下「電帳法」といいます。)の度重なる改正、ここでも「優良な電子帳簿」なる概念が使われています(電帳法8④、電帳法規5①・⑤)。

3..電子インボイス・デジタルインボイス(電帳法

 電帳法は、「電子取引で授受した電子データの保存」以外は原則として任意としています(電帳法4・7)。しかし、消費税インボイス制度のもと、仕入税額控除(消税法30)を受けるためには、発行側も受領側も、原則として、電子インボイスを電帳法の規定に基づき保存する義務が生じてきます(新消費税法57の5⑥)。電子インボイス・デジタルインボイスを採用する事業者は、仕入税額控除を受けるためには、税務会計業務のデジタル化に迫られ、電子帳簿制度を導入せざるを得ないことにもなりそうです。デジタルインボイスが稼働すると、これに対応した会計ソフトでは自動入力がなされ、請求から決済までがデジタルで一括決済がなされ、会計業務が大幅に効率化されるともいわれています[ii]。これが現実のものとなった場合、税理士法2条2項のいわゆる「会計業務」とはいったいどうなってしまうのでしょうか。さらにはこの電子インボイス・デジタルインボイスをツールに収集された税務情報の活用とはどうなるのでしょうか。そこでは、①常時オンライン税務調査が可能、②監視資本主義、監視税務行政、そして③記入済電子申告書にエスカレートすることも予想されます。

 ここで「記入済申告書」という言葉が出てきました。韓国では、付加価値税の申告にこの制度が利用されています。「記入済付加価値税申告」制度では、事業者自身が国税庁にアクセスし、課税庁もとに集まった取引データをもとに作成した付加価値税申告書案をチェックし、事業者がその案で申告するか、その案を修正して申告するのです。この「記入済申告書」は、果たして申告納税制度(国通法16①一)に馴染むものなのかどうかという問題は確かに残ります。税理士法1条は「税理士の使命」として、「…申告納税制度の理念にそつて…」といいます。仮にわが国においても、この電子インボイスのもと、「記入済申告書」が導入されることとなったとすれば、これは税理士制度そのものを揺るがすことにもなりかねません。また税理士法2条1項2号の「税務書類の作成」業務とはどのように変質してしまうのでしょうか。

4. 電帳法と質問検査権

 電子インボイスをツールに収集された税務情報の活用の一つとして、常時オンライン税務調査が可能となることが挙げられます。クラウドに収集された税務情報、例えば総勘定元帳と電子インボイススの突合は容易に可能となるはずです。このような総勘定元帳と電子インボイスの確認作業を済ませたうえでの質問検査権の行使、すなわち税務調査とはどうなるのでしょうか。具体的には税務調査の現場でよくなされるいわゆる「期ずれ」の問題などは今後はなくなるということです。2020年7月から大規模法人を対象としたweb会議システムを利用したリモート調査が開始されました。いずれはこのようなリモート調査が一般的となるのではないでしょうか。そこでは調査官の「質問」は形式的なものへとなり、「質問応答記録書」形式になるのではないでしょうか。税務調査の録音・録画は当たり前となり、録音・録画データをAIで分析ということにもなりかねません。なぜなら税務調査の録音・録画は、アメリカをはじめとした先進諸国における対面型税務調査では常識だからです。

 では「質問応答記録書」とはいったい何なのでしょうか。これは実地の調査のときに、税務署の調査官が調査の対象とした納税者や納税者の取引相手などの関係者に対面で質問し、回答内容を記録し、記録後に回答者に対して署名押印を求める行政文書(公文書)と定義することができます。税務調査ではっきりしなかった事実を対面、問答形式などで確認し、証拠固めすることが目的です。なおこの「質問応答記録書」は、税務署の職員向けの手引書を基に納税者などに協力を求め作成.され、税法を根拠に作成しているわけではありません。これは納税者など回答者の権利利益に重大な影響を与えることになります。また税務署だけが手引書の具体的な内容を知っており、租税法律主義(憲法84・30)、「法律による行政の原理」から多大な問題が残るところです。

5.デジタル化と納税者権利憲章

 このような税理士、さらには納税者を取り巻く環境の変化というものを考えてみますと、やはりわが国においても「納税者権利憲章」の制定が急がれるところです。これまで先進諸国をはじめ多くの国々は、いわば競い合うように納税者権利憲章・納税者権利章典を公表してきました。「役所が主役」から「市民・納税者が主役でお客様」が世界的な趨勢のようです。例えばアメリカ内国歳入庁(IRS) 「納税者としてのあなたの権利」は、IRSの役割として、「アメリカの納税者に対し、最高の質のサービスを提供することにより、すべての納税者が自らの納税義務を理解したうえで果たせるように支援し、かつ、誠実・公平に税法を執行すること」といいます。また韓国国税庁は、納税者権利憲章の意義について、「国税公務員には、国民の納税義務の履行に必要なサービスを最大限に提供し、納税者の権益保護に最善を尽くす義務があることを記載することによって、納税者の誠実な納税義務の履行を間接的に表現した」といいます。わが国国税庁は、毎年「国税庁レポート」を公表しています。そこでは国税庁の使命は、「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する[1]」というに留まり、「納税者サービスの充実と行政効率化のための取組」として、「広報活動や租税教育、税務相談などにより納税者サービスを充実[2]」というにすぎません。世界的な流れからすると逆行しているようにもみえてしまいます。

6.おわりに

 ここまで今後のデジタル化と税理士の業務との関係を考えてみました。さらに今回、「税務相談停止命令制度」も新設されました。税理士法のいう「税務相談」業務も、申告納税制度の立場から、そして税理士法の立場からもう一度考えてみる必要がありそうです。何故なら諸外国においては、民間ボランティアによる税務援助は当たり前となっているからです。

どうもこのデジタル化に伴いもう一度、税理士法のいう「税理士の業務」について考えてみる必要がありそうです。また税理士としては、わが国唯一の「税務に関する専門家」として、納税者権利憲章制定に向け再び動きださねばならないようです。

[1] 財務省webサイト「令和4年度 税制改正の解説」735頁以下

https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2022/explanation/PDF/p0735-0796.pdf (2023年6月15日閲覧)

[2] 日本経済新聞2023年3月8日「銀行送金、インボイス連動」

[3] 例えば「国税庁レポート2022」7頁

[4 前掲(注3)11頁



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