税界展望

『論』 Newest article

研修の受講義務について考える。

(第577号掲載)

 税理士が社会経済において果たすべき役割は、納税義務の適正な実現を図ることである。そのことは、税理士法第1条に規定する「税理士の使命」の実現であり、今日の申告納税制度を支える重要な骨幹でもあります。また、税理士の社会的信頼並びに地位の向上にもつながって行くものでもあります。そして、税理士法第1条の「税理士の使命」を遂行する為にも税理士一人一人が税務に関する専門家として資質の向上を図るため日々研鑽を重ねることが大切と考えます。

 令和3年度の東京税理士会における36時間研修受講義務達成者の支部平均割合は、61.7%であると耳にしました。

 36時間の研修受講義務をまず研修の制度面から眺めて見たいと思います。

 まず、税理士法では、「研修」が第三十九条の二に設けられ「税理士は、所属税理士会及び日本税理士会連合会が行う研修を受け、その資質の向上を図るように努めなければならない。」と規定されています。

 東京税理士会会則では、「研修に関する施策」が第60条に設けられ「本会は、税理士の業務の改善進歩及びその資質の向上を図るため、研修その他必要な施策を実施する。」と規定され、続いて「規則への委任」が第60条の2に設けられ「前2条に規定する研修に関し必要な事項は、規則で定める。」と規則への委任がなされています。

 研修規則では、「研修の定義」が第2条に設けられ「この規則において研修とは、税理士の業務の改善進歩及びその資質の向上を図ることを目的として、本会及び日本税理士会連合会(以下「連合会」という。)が行う研修会、講演会、討論会その他これらに準ずるものをいう。」と規定されています。続いて、「研修の科目」が第4条に設けられ「研修の科目は、次の各号に掲げるものとする。

1.税理士法その他職業倫理に関するもの

2.租税法及び会計に関するもの

3.公益的業務に関するもの

4.情報処理に関するもの

5.法律、経済、経営その他税理士の業務の改善進歩及び資質の向上に役立つと認められるもの」と規定されています。

 そして、「研修の受講義務」が第5条に設けられ「税理士会員は、第2条に規定する研修を、一事業年度に36時間以上受けなければならない。」と規定されています。

 要約すると、税理士法では、資質の向上を図るように努めることが求められ、東京税理士会会則では、研修に関し必要な事項は、規則へ委任され、研修規則で研修の定義、研修科目、そして36時間の受講義務が規定されています。

 以上の流れで研修の会則義務化が確認出来るものと思います。

 一方、研修の環境面についても眺めて見たいと思います。

 東京税理士会並びに各支部では、税制改正、年末調整、確定申告についての研修会や様々なテーマの研修会が企画され実施されています。また、日税連、東京税理士会では多くの研修機会の提供を目的としてマルチメディアによる研修受講も整備され、内容的にも充実したものとなっています。

 そもそも研修を受講する目的は何なのでしょうか。究極的には、納税義務の適正な実現を図ることを目的として、複雑化する税法、納税者からの多様化した依頼内容等々に応えるためであり、その為に資質の向上が必要であることから新しい知識を身につけるたに研修を受講するのでしょう。現状としては、研修時間が36時間に達したか否かが話題となり「あと何時間研修を受講しなくては、」等々、研修の受講時間を気にする声を多く聞きます。これでは研修を36時間受講することが目的となってしまっており、一つの基準として「目標である36時間という基準」を利用する価値はあると思いますが、研修受講の36時間だけに目を向けてしまっては、目的と目標とをはき違えてしまっているのではないでしょうか。

 資質の向上としての研修は自己研鑽が原則であり、その為の一つの方法として東京税理士会並びに各支部が行う研修会、マルチメディア研修を利用することは大いに有効であると考えます。そしてその結果としての研修の受講時間が36時間を超えることは、一つの基準として有効であると考えます。日々、一人一人の税理士が研鑽を積めば、国民が安心して依頼し、そして信頼される国民のための税理士制度が確立されるものと考えます。

 今年度も半分が過ぎ、折り返しとなりました。あと何時間研修を受講すると36時間を達成出来るのかな。(笑)

『展望』 Newest article

経済対策面からもインボイス制度導入の見送りを

(第572・573号合併号)

 ロシアのウクライナ侵攻による、いわゆる「ウクライナショック」が我が国の国防に対する意識や暮らしに大きな影響を与えている。国際ルールや秩序を犯すことは許されないということを知らしめるべきである。ウクライナを擁護することは国防が脆弱な我が国の国益にも繋がる。自由と平和の中で経済活動ができるということを改めて考えさせられる。

 さて、欧米がロシアに対する経済制裁を強化したことによってエネルギーや穀物などロシアに依存する資源・農産物の価格が上昇している。物価高は国民の暮らしを直撃し、とくに低所得者層にインパクトがある。高所得者はガソリン代が1ℓ@20円上がったところで生活に困窮することはまずないだろうが、生活に直結している層にとっては大ダメージである。「みずほリサーチ&テクノロジーズの試算によると、食料やエネルギー価格上昇の家計の負担率は年収300万円未満の世帯は同1千万円以上の約4倍で、消費増税3%に匹敵するインパクトがあるという。」(朝日新聞)。政府は①原油高②食料・資源高③中小企業支援④困窮者支援の4分野を柱とする緊急対策や、食料、資源の物価高には多様な調達先の確保をめざし、ガソリン税を一時的に下げる「トリガー条項」の凍結解除や代替策も検討のうえ、当面の財源にはコロナ対策の5兆円を含む総額5兆5000億円の予備費を充てるようだ。物価が上がれば事実上消費税の増税と変わらない。経済対策によってピンポイントで困った層に給付ができるのなら、消費税の低所得者対策としての給付措置もできるはずである。例えば、ここは当面、消費税の税率を一律8%の軽減税率によって単一税率とすればこのような状況の中であえてインボイス制度を導入する必要もなくなる。その後のことについては、コロナや戦争の状況をみて考えれば良いのではないか?

 最も支援しなければならない免税事業者に増税や減収を誘発するインボイス制度の導入を見送ることのほうが経済対策になると思うのだが。

『寄稿』 Newest article

税理士法の改正について

渋谷支部 倉林倭男

(第574号掲載)

 令和4年3月22日国会において、税理士法改正を含む「所得税法等の一部を改正する法律案」が可決・成立した。

 今回の改正内容は主に、税理士の業務のICT化推進の明確化として、下記のように税理士法第2条の3を新設、また多様な人材を確保する点から同第5条(受験資格)の要件の見直しとして、会計科目に関する受験資格を廃止し、税法科目に関する学問の範囲を緩和するものである。加えて、税理士に対する信頼の向上を図るための環境整備として、懲戒逃れをする税理士への対応の強化を中心に、同第48条、第55条第2項、第56条を新設するなど法律の規定を整備した。

(税理士の業務における電磁的方法の利用等を通じた納税義務者の利便の向上等)

第2条の3

 税理士は、第2条の業務を行うに当たっては、同条第1項各号に掲げる事務及び同条第2項の事務における電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。第49条の2第2項第8号(新設:筆者注)において同じ。)の積極的な利用その他の取組を通じて、納税義務者の利便の向上及びその業務の改善進歩を図るよう努めるものとする。

(懲戒処分を受けるべきであったことについての決定等)

第48条

 財務大臣は、税理士であった者につき税理士であった期間内に第45条又は第46条に規定する行為又は事実があると認めたときは、当該税理士であった者がこれらの規定による懲戒処分を受けるべきであったことについて決定することができる。この場合において、財務大臣は、当該税理士であった者が受けるべきであった懲戒処分の種類(当該懲戒処分が第44条第2項に掲げる処分である場合には、懲戒処分の種類及び税理士業務の停止をすべき期間)を明らかにしなければならない。

第2項、第3項 省略

(関係人等への協力要請)

第56条

 国税庁長官は、この法律の規定に違反する行為又は事実があると思料するときその他税理士業務の適正な運営を確保するため必要があるときは、関係人又は官公署に対し、当該職員をして、必要な帳簿書類その他の物件の閲覧又は提供その他の協力を求めさせることができる。

 平成26年の税理士法改正も今回と同様、所得税法等の一部を改正する法律案の納税環境整備の一環として行われたもので、公認会計士に係る資格付与の見直し、補助税理士制度の見直し、調査の事前通知の規定の整備等重要な項目についての改正であった。その時にも感じたことだが、今回の法案審議においても実質的な審議がほとんどなされていない。国会議事録を斜め読みしてみたが、衆院財務金融委員会での質疑は、①偽税理士への調査が見送られたが今後どのように検討するのか。②税理士法人の業務範囲の拡大について、その理由と新たな業務とは何か。③受験資格要件は不要ではないか。の3件のみであった。参院財政金融委員会では税理士法改正に関する質疑は見当たらなかった。

 前回も今回も税理士法にとってはかなり重要なテーマであるにもかかわらず、行政の用意した改正案が具体的な審議を尽くされないまま可決・成立しているように思われる。現状喫緊の改正課題があるわけではないと考えるが、今後の税理士法改正は単独法案として改正手続きを進め、充分な審議を尽くせる態勢を作るべく各方面へ働きかけをする必要があるのではないか。


「税界展望」 掲載記事 最新10件