
『論』 Newest article
二転三転するインボイス制度の説明、どうしていますか?
(第580号掲載)
請求書の適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」と呼ぶ。)に関する説明を顧問先にすると、想像以上にたくさんの質問を投げかけられ戸惑うことがしばしばある。税制というよりも、まずは顧問先の請求書発行処理を知ることから始まる。請求書の消費税端数処理をどうしているか、請求書作成は1回の取引ごとか、1か月分をまとめてなのか、これが今回のインボイス制度にはとても大事な点である。こうしてインボイス制度の説明には結構な時間を割いてきた。ということで、前号に引き続きで恐縮ではあるが、今月号もインボイス制度について書くことにしたのだが、実は一か月前の「論」に掲載するつもりで一度書きあげた文章を、12月中旬に公表された税制改正大綱により、違う論点が加わり改めて書き直す羽目となった。繁忙期の最中、インボイスに振り回されている。
インボイス制度の導入に個人的には今も反対である。昨年末にインボイス制度の冊子を事務所名入りで大量に作成したものの、心のどこかで今年7月の選挙で大きな変動があればインボイス制度も見送られるかもという淡い期待もあり、作った冊子は長い間、段ボール箱にしまったままだった。しかし、選挙も終わりインボイス制度見送りの期待感が消えた頃から、顧問先からインボイスに関する質問が次々と届くようになった。当初、質問の多くは「取引先からインボイス登録申請状況確認書が届きましたがウチはどうしたらいいのでしょうか?」というシンプルな問い合わせであり、その多くはすでに課税事業者だったので、いずれ出すべきものなので早めに出しましょう、御社からも取引業者確認をしましょうと話して登録申請作業を順次進めていた。
そうこうするうちに、免税事業者からの問い合わせが増え始め、こちらの説明の大変さが加わった。私の事務所は不動産賃貸業を個人で営む事業者が多く、彼らは事業的規模はあっても居住者向けが大半であり消費税は免税という事業者も多いのだが、マンション1階のテナントに事業者が入居している場合はインボイスを求めてくることが十分予想される。その時に貸主が免税事業者なのでインボイスを発行できないと言った場合に相手から消費税分を値引き交渉されることも想定されるため、その場合の消費税分の減収額と、あえて課税事業者となり簡易課税を選択した場合の消費税納税額を計算し、両者を具体的な数字で比較して説明して選んでもらう二択性をとり説明を進めていた。ところがここにきて、小規模事業者に係る税額控除に関する2割特例という経過措置案が税制改正にて公表されたことにより、「免税のまま」か「簡易課税」か「2割特例」かの3択となるのは確実となり、顧問先への説明方針を変えることとなった。いっそなにも説明しなければよかったと思う今日この頃である。
話は変わり、ある顧問先がPeppol(ペポル)というユーロを中心とした標準化規格を日本のデジタルインボイスの標準仕様にする仕組みづくりに関わっており、その会社から受ける質問は、即答できない細かい質問が続き非常に苦戦している。システム開発会社からすれば税理士ならばインボイスに通じていると思うのも無理ないが、それは税の話ではないという質問もあり、国税庁のインボイスに関する相談窓口フリーダイヤルへ聞いて解決して欲しいと言ったのだが、どうも回答してくれないらしい。私も試しにトライしてみたが、個別具体的な質問にはお答えできませんとのことだった。私の悩みはどうやら年を越して持ち越しそうである。
皆さん、インボイスの説明はどうしていますか?
『展望』 Newest article
日本経済動向と消費税増税の因果及びインボイス制度開始への思い
(第575号掲載)
6月2日、米電気自動車大手テスラのCEOイーロン・マスク氏が「経済環境について、とても悪い予感がする」として、新規雇用の中止と人員削減の必要性を幹部社員に示した。翌日の株価急落を受けて、翌々日には撤回するような姿勢を見せたが、同じような考えを持つ経営者は多いだろう。新型コロナやウクライナ侵攻から派生した問題等が絡み合い、世界経済の回復力は低下している。日本もその例外ではなく、小さな負荷が日本経済の思わぬ衰退を招く可能性も考慮すべきだ。
日本経済衰退の歴史は、消費税増税の歴史と重なる。消費税の創設はバブル経済真っただ中であったため負の影響はかき消されたが、バブル経済をハードランディングさせた後、不況下で行われた1997年の5%への増税は、今日まで続くデフレ経済がスタートする契機の一つとなった。2014年の8%への増税では、リーマンショックによる不況以来のマイナス成長(▲0.4%)となり、2019年景気後退局面での10%への増税では、新型コロナウイルスの影響も重なって前回増税時を超えるマイナス成長(▲0.7%)となった。
消費税増税は今の生活を直撃するだけではない。一生涯の可処分所得がその分減るのである。過去に貯めた預金の価値さえ強制的に減ってしまう。理性的な個人は、将来の負担増に対応し、消費を先延ばしする。その行動は褒められこそすれ、責められるところは微塵もない。しかし、その行動が日本経済を停滞させてしまう。個々人の正しい行動が、望まない結果に繋がるのであれば、それはシステムに問題があると言わざるを得ない。
来年10月にはインボイス制度が始まる。既に大企業による免税事業者排除の動きが顕在化しており、やむを得ず課税事業者を選択する中小企業にとっては大きな増税となる。その影響はそこで働く従業者の生活を直撃し、これもまたデフレ不況を深化させる。 繰り返される悪手に対して、政治家が悪い、官僚が悪いというのは簡単だが、問題の原因を他人に帰すると、人は思考停止になる。政治家、官僚、国民がそれぞれの善意に従って努力した結果、今の日本がある。問題は人ではなく、為政者と国民の分断である。国民が為政者に寄り添うべく、投票だけではない、国民の政治参加が重要性を増している。
『寄稿』 Newest article
~機関決定を経る前に、ホームページ、広報誌で方針変更を発表~
日税連理事会傍聴報告 新宿支部 菊池 純
(第576号掲載)
令和4年6月29日シェラトン都ホテルB1「醍醐」で日本税理士会連合会(以下「日税連」という。)第1回理事会が開催された。
議決事項 一 第66回定期総会提出議案 二 第66回定期総会の招集日時及び場所 三 令和5年度税制改正に関する建議書(案)はすべて賛成多数で可決された。
本報告は、議決事項の「令和5年度税制改正に関する建議書(案)」の重要建議項目中、適格請求書保存方式の導入についてと、それに関連する報告事項 4 インボイス制度の円滑な導入・実施について絞って報告する。
1.方針変更手続きの経過
①日税連ホームページ
日税連は令和4年5月26日ホームページにおいて「インボイス制度の円滑な導入・実施について」を発表、令和3年6月23日公表の令和4年度税制改正に関する建議書で「インボイス方式を見直すとともに、その導入時期を延期すること。」としていた方針を変更した。
突然の発表であり、どこでどのようにして決まったか、何のコメントもない。
②日税連機関紙「税理士界」
日税連の機関紙税理士界(6月15日号№.1413)では、「インボイス制度の円滑な導入・実施に係る提案」として、インボイス制度の実施を踏まえた柔軟な運用に係る、日税連としての提案事項が掲載された。何月何日どこでこのような決定がされたのかはわからないが、日税連ホームページとの関係で、5月26日第2回正副会長会において、と推測する。
この記事によると、同提案は6月2日に開催された自民党税理士制度改革推進議員連盟(会長:宮沢洋一参議院議員、幹事長:西田昌司参議院議員)の第2回インボイス勉強会(発足は昨年11月西田議員の提案による)で報告され、同勉強会には、自民党議員のほか関係省庁の担当官も出席してたとして、出席議員全員が賛意を示し宮沢会長も前向きに検討すると約した旨が書かれ、年末の税制改正大綱に向け要望を強めていくとしている。
③日税連建議書
6月29日第1回日税連理事会において建議書案が審議され、議決された。
建議書の重要な変更点は、令和5年度税制改正に関する建議書(案)の重要建議項目1.に「適格請求書等保存方式の導入時期を延期するか、少なくとも中小企業者の実務を踏まえた柔軟な運用を行うこと。」とされ、前年までの建議書内容に太字部分が加筆された。
また、報告事項の4 インボイス制度の円滑な導入・実施について(令和4年5月26日付)では、これは建議書案に沿って提案したとの説明があった。
2. 批判的見解
建議書案が日税連理事会で可決される前に、建議書に沿った提案を日税連ホームページ及び日税連機関紙で発表した。
さらに、前年の建議書で「見直し、延期」としていた内容を、「円滑な導入・実施」と180度舵を切ったもので、手続きとともに到底承知できない。
各単位会の意見書は税理士会員の意見の結晶である。日税連が何と言おうが各単位会の意見書は生きている筈である。
少なくとも東京会はインボイス制度導入反対の意見を維持している。東京会の公式見解はずっとインボイス制度導入反対である。
税の専門家である税理士は、インボイス制度は導入しなければならない理由が存在しない中で、多くの負担を招くだけの制度を導入すべきでないから反対してきたはずである
インボイス制度の問題点が何も解決しない中、国民のためにならないとわかっていて円滑な導入など提案したら、納税者の権利を擁護するという使命を掲げる税理士会は、納税者からの信頼を失うことになる。
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