印紙税の課税根拠は?

 2023年05月26日

(第583号掲載)

  本年3月17日、東京税理士会は「令和6年度税制及び税務行政の改正に関する意見書(以下「東京会意見書」という)」について理事会決定をした。重要な改正要望事項として3項目。改正要望事項として40項目が掲げられており税目は多岐にわたる。今回は例年に比べ新規要望事項が増えた印象を受けるが、毎年継続的に要望されている事項も多くみられる。なかでも永年、税理士会が要望を続け、しかも会員からの要望も根強い事項が「印紙税の廃止」だろう。

 以下、東京会意見書の記述内容である。

☆印紙税を廃止すること。(継続要望)
【意見及び理由】 印紙税は、経済取引について契約文書等を作成することにより、取引の当事者間において取引事実が明確となり法律関係が安定化される点に着目し、契約文書等の作成行為の背後に担税力を見出して課税する間接税に近い流通税であると説明されている。しかし、契約文書等に担税力を見出す場合、契約書の作成が取引の成立要件になっている必要があり、かつ、その後の所得の発生に基因して所得課税等が行われる実状に鑑みれば、契約文書等がない取引に比して過重な負担を求めていることになる。したがって、印紙税は、課税根拠としての十分な担税力を認識できないにもかかわらず課税をしているのであるから、廃止するべきである。

 印紙税の歴史を調べると、我が国では明治6年に地租改正と同時期に農業と商業から安定的に税収確保をするために導入され、その後現在に至るまで印紙税法は存在することになる。

 印紙税の課税根拠は上記東京会意見書の通りであるのだが、ご存じの通り、印紙税は紙文書については課税されるが電子取引については課税されない。

 急速に進むICT化、デジタル化において電子商取引が増える昨今において、この相違は、非常に疑問となる。

 この点に関しては国会でも以下の通り取り上げられている。

 平成17年162回国会質問主意書答弁書 (一部抜粋) 事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、これまで専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。  
 しかし、印紙税は、経済取引に伴い作成される文書の背後には経済的利益があると推定されること及び文書を作成することによって取引事実が明確化し法律関係が安定化することに着目して広範な文書に軽度の負担を求める文書課税であるところ、電磁的記録については、一般にその改ざん及びその改ざんの痕跡の消去が文書に比べ容易なことが多いという特性を有しており、現時点においては、電磁的記録が一律に文書と同等程度に法律関係の安定化に寄与し得る状況にあるとは考えていない。  電子商取引の進展等によるペーパーレス化と印紙税の問題については、印紙税の基本にかかわる問題であることから、今後ともペーパーレス化の普及状況やその技術の進展状況等を注視するとともに、課税の適正化及び公平化を図る観点等から何らかの対応が必要かどうか、文書課税たる印紙税の性格を踏まえつつ、必要に応じて検討してまいりたい。

 令和3年9月、デジタル社会の形成に関する施策を迅速にかつ重点的に推進するためにデジタル庁が創設された。デジタル庁のHPをみると今後様々なものがオンライン、デジタル化され当然ペーパーレス化が進むことになるだろう。税務の分野においては、来年より改正電子帳簿保存法への対応が必要となる。電子帳簿保存法改正では、電子帳簿の保存に際して真実性の確保が要件として求められることになる。

 内閣府は「国民の利便性」を前面に押し出しデジタル化を推進し、一方、国税庁は電磁的記録について「改ざんしやすい、法律関係の安定化に疑問がある」として電帳法改正を行い、また印紙税の文書課税の根拠を貫く。

 印紙税の税収は4000億円以上あるという。こんなにも多くの税額が、現代社会において課税根拠が薄れてきたにもかかわらず、いまだ徴収されている現状を踏まえてしっかりとした議論が必要な時期が今まさに来ているのだろう。