免税事業者への適格請求書発行事業者の登録の説明をどうするか?

 2022年12月09日

(第578・579号掲載)

 適格請求書発行事業者の登録申請(以下インボイス登録申請と記載します)が始まってから免税事業者への説明をどうするかということで頭を悩ますことが多い。先日も所轄税務署から顧問先へのインボイス登録申請についての状況の確認と早期の申請のお願い電話があった。課税事業者に関しては申請済み、免税事業者への対応はこれからと伝えた。やはり問題は確実な課税事業者については登録申請を進めているものの、結局のところ行きつくのは免税事業者への対応になってくる。

 免税事業者への説明については以下の2つに分けられると思う。

  1. 顧問先が免税事業者である場合
  2. 顧問先の取引先が免税事業者である場合

1の顧問先が免税事業者である場合にはすでにコミュニケーションが取れているので登録申請については税額控除の経過措置も含めて(更に簡易課税の説明まで)説明はできるのでさほど困らないのであるが、問題は2の顧問先の取引先への説明が果たして顧問先ができるのか?というところである。

 アプローチ方法は2つあり、免税事業者自身が国税庁のHPや動画で自らインボイス制度を理解して登録申請を行うかどうかの判断を行う方法。もう1つは顧問先の経理担当者に税理士がインボイス制度を詳細に説明して理解してもらった上で、取引先に説明をしてもらうという方法があるが、前者の方法は大多数の免税事業者が理解するのは難しいだろうと思う。そうなると結局後者の顧問先の経理担当者の業務が増えることになるが、この説明業務を税理士に依頼してくる可能性がある。私は特にこの顧問先の取引先への説明というところが将来のトラブルに発展しないか憂慮している。例えば税額控除の経過措置をすべて説明して理解できるのか、説明を聞いて登録申請したものの実際には申請しなかったほうが有利だったといったことが発覚した場合には税理士への損害賠償に発生する可能性すらある。

 特に話を難しくしているのは財務省と公正取引委員会等が令和4年1月19日に出している「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」である。下請法や優越的地位の乱用という言葉が出てくるが、このような文章が出されることは、結局のところ免税事業者への対応が一番の難しいということを裏付けている。このQ&Aを顧問先経理担当者に渡して一読の上取引先免税事業者へ説明してください。ということは非常に乱暴な話だと思うし、中小企業の経理担当者に対しても酷だろうと思う。

 乱暴な説明でいえば、免税事業者との取引先とはインボイス登録申請を行わない場合には、消費税部分は支払わないこと。税額控除の経過措置については経理処理が顧問先も税理士事務所も煩雑になることから説明を詳細には行わない。簡易課税をとにかく選択して経理を簡単にする。などの説明であれば簡単なのであるが、結局簡易課税を選択したことにより消費税の還付を受けられなくなった、経過措置を知っていれば登録申請を行わなかったなどのクレームが多発する気がしてならない。

 また免税事業者へ取引先からインボイス制度登録についての確認書が送られてきているが、免税事業者から弊社はどう対応すればいいですか?というメール一文に対して税理士としてどれだけの時間をかけて説明しなければならないのだろうか。ここも国税庁のHPと動画のURLサイトをコピペして一読しておいてというのは楽であるが、免税事業者にとっては酷であろう。

 そろそろ税理士会の研修でもインボイスの内容の研修ではなく、免税事業者への対応方法についての研修や各税理士からの情報収集をしてそれを他の税理士と共有するなどの研修を行っていかなければならない時期ではないだろうか。

 また税理士会として顧問先の取引先免税事業者への対応方法について、損害賠償を受ける可能性がある場合も含めての注意喚起と統一の説明方法などを公式見解として出してほしいと思う。

インボイス登録だけではなく、電帳法による電子インボイスとの関係、マイナンバーカードの強制取得など今後顧問先への対応で時間を取られるケースが増えてくる。できるだけトラブルなく進めていきたいと思う。