税務相談は時代を移す鏡である

 2021年02月01日

(第561号掲載

税務相談は時代を移す鏡である、というのは言い過ぎだろうか。

 今年も東京国税局が設置する確定申告電話相談センターでの相談業務に従事している。東京国税局管内の個人から寄せられる所得税、消費税、贈与税に関する質問に回答する。1月の中旬から執筆時点までに300件以上の相談に対応して感じたことを共有したい。

 サラリーマンの確定申告の二大事由である医療費控除と住宅ローン控除の相談が多いのは例年どおりである。医療費控除では介護関連の相談が比較的多い。新型コロナウイルスへの感染を危惧した受診控え等から医療費全体の支出は減る一方で、介護関連の支出は減らず、結果として浮かび上がったと考えられる。住宅ローン控除では、中古住宅と増改築の相談が増えた。緊急事態宣言下で在宅ワーク等が浸透し、独立したワークスペースなどを備えた新たな住宅需要が喚起されたのかも知れない。

 高齢の中途退職者からの相談も目立つ。定年退職者だけではなく、継続雇用と思しき年齢の人からの相談も多い。年金受給者であることから一定の生活保障があるため、コスト削減の調整弁となったかたちであろうか。

副業の相談も増えた。Uber Eatsを始めた人の相談は特に多い。話を聞く限り、全く儲かっていない。儲けているのは低コストでテイクアウトを始められる飲食店とUberなどの仲介者だ。その皺寄せ一身に受け止めているのが個人事業主である配達員である。個人事業主であることをいいことに最低時給以下の条件で働いている。ワーキングプアの温床と言っていい。

その一方で、給与収入が1,500万円~2,500万円という人からの相談も増えた。試しに国税庁の「民間給与実態統計調査(平成元年分)」を覗いてみると、果たしてこの層の給与所得者は年々増えていることが確認できる。日本の伝統的富裕層と言えば、地主と医師と企業経営者であるが、サラリーマンでも富裕層の仲間入りができる環境が整ってきた。アフターコロナの財政健全化において、経済の活性化に貢献してもらえると有難い。

 今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で税理士による無料相談の多くが中止となった。税務署の確定申告作成会場も当日に入場整理券を配布する方式や対話アプリLINEで予約する方式を採っているが、遠方に住んでいたり、スマートフォンを持っていない高齢者にとっては酷であり、多くの申告難民が発生すると思われる。計らずも申告納税方式がどうあるべきか、もう一度考え直す良い機会になるのではないだろうか。春の来ない冬はない。その日に向けて、知恵を蓄えておきたい。