電子帳簿保存法について考える

 2021年11月12日

(第567号掲載)

 令和3年度の税制改正において「電子帳簿保存法」の改正が行われ、令和4年1月1日から施行されることとなりました。今回の改正ポイントは、各税法では原則「紙」での保存が義務づけられている帳簿書類について一定の要件を付した上で、承認制度の廃止、タイムスタンプ要件の緩和、検索機能の緩和、電子取引の電子データ保存の義務化の4つになります。電子帳簿保存法上、電磁的記録による保存は「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3つに区分されます。

「電子帳簿等保存」に関しての改正は、

  • 税務署長の事前承認制度が廃止されました。
  • 優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置が整備されました。

(税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしていること)

「スキャナ保存」に関しての改正は、

  • 税務署長の事前承認制度が廃止されました。
  • タイムスタンプ要件、検索要件等について要件が緩和されました。
  • 適正事務処理要件が廃止されました。
  • スキャナ保存された電磁的記録に関連した不正があった場合の重加算税の加重措置が整備されました。

「電子取引」に関しての改正は、

  • タイムスタンプ要件及び検索要件について要件が緩和されました。
  • 適正な保存を担保する措置として2つの見直しが行われました。

(電磁的記録の出力書面等の保存をもってその電磁的記録の保存に代えることができる措置は、廃止されました。)

 今回の電子帳簿保存法は、いくつかの要件が緩和され利便性が向上したように見えますが、果たしてそうでしょうか。

 電子帳簿の電磁的記録で保存することが緩和されましたが、一方で税務職員による質問検査権における電磁的記録のダウンロードの求めに応じることがセットになっていることは大きな問題です。

 また改正前は、取引先からメールに添付ファイルで送られてきた請求書等は出力書面等、つまり「紙」に出力して保存することが認められていましたが、今回の改正によりこの規定が廃止されました。取引先からメールに添付ファイルで送られてきた請求書等も「電子取引」に該当しますので、今回改正された電子取引の保存要件を満たすように保存する必要があります。その為、今回の電子帳簿保存法は事前承認制度が無いことから、電子帳簿保存法とは関係がないと思っている企業でも気づかぬうちに電子帳簿保存法の中に取り込まれてしまっているのです。

 税務調査における帳簿書類の開示については、国税通則法改正のFAQ(平成28年12月改訂)に記載されており、「帳簿書類等の提示・提出をお願いしたことに対し、(省略)、税務当局としては、罰則があることをもって強権的に権限を行使することは考えておらず、(省略)、提示・提出が必要とされる趣旨を説明し、納税者の方の理解と協力の下、その承諾を得て行うこととしています。」また、「帳簿書類等の物件が電磁的記録である場合には、提示については、その内容をディスプレイの画面上で調査担当者が確認し得る状態にしてお示しいただくこととなります。一方、提出については、(省略)プリントアウトしたものをお渡しいただくこととなります。また、電磁的記録そのものを提出いただく必要がある場合には、調査担当者が持参した電磁的記録媒体への記録の保存をお願いする場合もありますので、ご協力をお願いします。」と記載されており、納税者の理解と協力が大前提であったはずである。そもそも、国税通則法の改正は総論において「今般の改正は、税務調査手続の透明性及び納税者の予見可能性を高め、調査に当たって納税者の方の協力を促すことで、より円滑かつ効果的な調査の実施と、申告納税制度の一層の充実・発展に資する等の観点から、調査手続に関する従来の運用上の取扱いを法令上明確化するものであり、基本的には、税務調査が従来と比べて大きく変化することはありません。」となっていたはずであり、今回の電子帳簿保存法は強権的な改正で国民主権とした国家としては真逆の方向へ向かっているように感じるのは私だけであろうか。