関与先からの相談

 2022年01月28日

(第569号掲載)

贈与税及び相続税に関連する顧問先からの相談が最近多くなっている。

(1)令和3年度税制改正大綱において、「資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税に向けた検討」が明記された。高齢世代に資産が偏在し若年世代に資産移転が進みにくい状況にあり、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築することが重要な課題としている。贈与税については、相続税の累進回避を防止するため、高い税率が設定されており、生前贈与の抑制となっている。平成15年度税制改正において、暦年課税制度との選択制として相続時精算課税制度が導入された。この制度を選択した場合は、それ以降の税負担は、資産の移転時期の選択によらず一定となるため生前贈与の抑制は働かないとみられる。しかし現在に至るまで広く利用されているとは言えない。大綱では、一定期間の贈与や相続を累積して課税する諸外国の例をあげ、今後相続税と贈与税を一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直し、資産の移転時期の選択に中立な税制の構築に向けて検討を進めるとしている。

東京税理士会でも統一課題「相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方の意見について」として各支部・会員に対して意見を求めている。
今後の改正はどうのようになるのであろうか? 財務省の資料の諸外国の例は
①米国の場合、一生涯の累積贈与額と相続財産額に対して一体的に課税する。
 過去贈与分に対する納付済み税額は、遺産税額から控除し、控除不足分は 
 還付される。(遺産税方式)
②一定期間(独10年・仏15年)の累積贈与額と相続財産額に対して一体的に
 課税する。過去贈与分に対応する税額(過去の累積贈与額に現行の税率
 表を適用した想定税額)は相続税額から控除。(控除不足額は還付しない)
①又は②もしくは暦年贈与制度の廃止という改正が実現すれば、今まで暦年贈与制度を活用した将来の相続財産減らすという相続対策が使えなくなる可能性がある。過去の贈与金額が高い税率で課税されることとなり将来の相続税額の負担が増加することとなる。今後の生前贈与対策は、直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度、直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度、贈与税の配偶者控除、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度(延長された場合)等の利用が考えられる。今後の相続税と贈与税の見直しの議論を注視する必要があり関与先との充分な説明と打合せが必要となる。
(2)成年後見制度
人生100年時代と言われるようになり、関与先の社長等も高齢化している。 そこで問題となるのが本人の判断能力が、将来認知症などにより低下した時のためのアドバイスである。本人の判断能力が正常なうちにあらかじめ公正証書により委任契約を交わすことで、援助してくれる人に代理権を付与し、本人の財産管理や身上保護などに関する事務を委任する任意後見制度の活用である。
 任意後見契約と公正証書遺言をセットで利用することにより、将来の生活の準備、本人の意思を尊重した遺産相続が可能となる。最近自分の周囲でも認知症等の事案が見られ、成年後見制度の仕組み・実体及び手続について顧問先に説明できる知識が必要だと感じる。
 関与先社長の判断能力が正常な場合の対応として、①社長の家族関係・財産の確認と社長の希望②株式の承継への備え③後継者の準備④遺言書の作成と生命保険の活用⑤信託による財産管理⑥任意後見制度の利用等がある。
 認知症が疑われる症状がある場合における対応として、①社長及び家族に認知症に対する正しい理解を共有してもらい専門家の協力を得る②成年後見制度の利用③認知症の症状が進んだ場合は「補佐」「後見」の利用を検討。
 どこまでが関与税理士としてするべきかの判断に多少の迷いはあるが、避けては通れないような気がしている。