税理士試験受験者数の減少を考える

 2021年01月25日

(第560号掲載)

 昨年12月18日に令和2年度(第70回)税理士試験結果が発表されました。5科目合格者数は648名で令和元年の749名より101名減少しました。受験申込者数は35,135名でこちらも令和元年の36,701名より1,566名減少し、昨年比95.7%となっています。

 ここ数年、税理士試験の受験者数の減少が税理士業界の話題となっています。過去10年間の税理士試験の申込者数をみても減少の一途をたどっています。その為、税理士の魅力を伝える広報活動を積極的に行うべきだとする意見や税理士試験の受験要件の緩和等々の対策も検討されています。

 しかしながら、受験者数の減少は税理士試験だけに言えることでしょうか。他の資格試験の受験者数をみてみますと、司法書士については、平成22年の出願者数33,166名をピークに減少し令和元年の出願者数は16,811名となっており、平成22年と比較すると16,355名減少し、減少率は49.31%となっています。社会保険労務士については、平成22年の受験申込者数70,648名をピークに減少し令和2年の受験申込者数は54,203名となっており、平成22年と比較すると16,445名減少し、減少率は23.27%となっております。行政書士については、平成15年の受験者数81,242名をピークに一旦減少しますが平成22年に70,586名へと増加へ転じます。しかし、その後減少し続け令和元年の受験者数は39,821名となっており、平成22年と比較すると30,765名減少し、減少率は43.58%となっております。弁護士、裁判官や検察官になるための司法試験は平成18年に新司法試験が導入されたことに伴い、受験者数が大幅に増えました。出願者数のピークは平成24年の11,265名で、その後減少し続け、令和元年の出願者数は4,930名となっており、平成24年と比較すると6,335名減少し、減少率は56.23%となっております。公認会計士については、平成18年に新試験制度へと変わりました。出願者数のピークは平成22年の25,648名で、その後減少し続け、平成27年には出願者数10,180名となり、平成22年と比較すると15,468名減少し、減少率は60.3%となっておりますが、その後公認会計士試験の出願者数は増加傾向にあり令和元年の出願者数は12,532名となっており、徐々に出願者数は回復してきています。

 平成の初頭、バブルが崩壊し、経済の先行きが不透明となり、職の安定性を求めることから資格を取得しようとする者が増え、それぞれの資格における受験者数のピークが平成22年頃にあったのではないでしょうか。また、人口の少子化も影響していると考えます。資格試験を受験し始めると予測される20歳から24歳までの人口は、平成12年に842万人いました。令和2年には616万人まで減少しています。そして、第2次安倍政権が発足し経済政策が行われたことも影響していると思います。大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」を経済成長の目的としたアベノミクスが唱えられ、大手企業を中心に雇用が回復し、人々の目が資格取得から企業への就職へと向けられるようになってきたことも受験者数が減少した一因と考えられます。

 資格取得全体で見たところ、それぞれの資格で受験者数は減少しているものの近年減少幅は狭まっており、公認会計士においては近年増加傾向も見られることから、受験者数の減少も次第に落ち着くのではないでしょうか。

 税理士試験は、税理士となるのに必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的として行われることから、資質の確保、向上を図るための資格取得制度でなくてはならないと考えます。目先の受験者数の数値を気にすることも大切ですが、成るべき者が税理士となる資格取得制度をしっかりと考えることの方が税理士試験の受験者に希望ある未来を見せることが出来るのではないでしょうか。