税理士法改正はどうあるべきか 「納税者の権利擁護のために」
(第574号掲載)
税理士法の改正を含む「所得税法等の一部を改正する法律案」が3月22日の参議院本会議にて与党賛成多数により可決・成立した。8年振りの税理士法改正となり、今回の改正も前回同様、税制改正法案よる納税環境整備の一環として上程されたものである。
過去、税理士法改正については、「税理士法の一部を改正する法律案」として、いわゆる単独法案により上程されていた。
法改正の上程方法が変わった背景としては、戦略として法案の成立を優先させた結果であろう。前述の通り、税理士法改正は、平成13年改正までは単独法案として内閣より提出(以下、「閣法」という)されていた。通常国会における閣法の提出件数は概ね70件程度となる。従来は、様々な法律改正案の中から税理士法改正法案が国会上程され、可決されることに大きなエネルギーを注いでいた。今回のように、毎年必ず上程され、与党賛成多数により可決されることが当然となる「所得税法等の一部を改正する法律案」の一部として税理士法改正を行う手法については、成立に向けた戦略的な方法といえるのだろう。
しかし、法案成立を優先させたゆえに失うものはなかったのかと疑問に思う。
今回の改正では、ほとんど税理士法についての国会質疑は行われないままに法案が成立した。以前は、法改正の際に提案理由説明が示され、財務金融委員会を中心に国会質疑が多く行われていた。これらの審議過程での議事録が附帯決議を含め、次なる税理士法改正に向けての貴重な資料となり検討課題となったと思われる。
今回の改正を振り返ると税理士会員の機運が高まったとは言えず、日税連と国税庁での事前協議が進み、国会の場における税政連の役割は少なかったようだ。かねてより税政連は税理士法改正を実現するためには、原則として国会の全党一致を必要とするため、与野党問わず議員後援会を組織し、税理士制度を推進する各党議連を立ち上げていた側面がある。今回の税制改正法案では慣例通り野党は反対投票をしている。税理士法改正が税制改正法案と一体となったために、税理士業界に理解ある野党議員が反対票を投じるという皮肉な結果となった。今後も同様の改正手法が続くのならば、税政連の在り方にも影響を及ぼし、行政主導の税理士法改正のみしか行われないのではないかと強く危惧する。
専税協議会が掲げる「国民のための税理士制度の確立」を目指すうえで、行政と対立する税理士法改正案が必要となる場面があろう。例えば1条使命条項、OB資格取得問題、自治権など税理士法が長年抱える根本的課題について法改正を行うのであれば、行政主導の改正では実現できない。
法案の提出には、「閣法」と「議員立法」の2つの方法がある。行政に強く依存しない立法手段である議員立法については国会法により「衆議院においては議員20人以上、参議院においては10人以上」により発議が可能とされている。しかし、慣例により提出にあたっては党執行部内での承認手続きが必要となる。また閣法に比べ議員立法は、継続審議となる場合を含め、成立に至る割合は極めて低い状況にある。議員立法による手段はハードルが高く、安易に税理士法改正は「閣法」ではなく「議員立法」であるべきと言うつもりはないが、我が国では社会保険労務士法や行政書士法の改正は議員立法により改正が行われている。隣国の韓国では資格取得問題について議員立法により法案が提出されている。資格制度創設の経緯、国の違いはあるが、我々が望む税理士法改正のためには議員立法による道を放棄してはならないのではないか。
シャウプ勧告では税理士を「納税者の代理人」として「税務行政の円滑な執行を助ける」 とともに 「納税者が税務官吏に対抗することを援助する」ものと位置付けている。税務行政の円滑な執行のみを目的とした税理士法改正ではなく、時には行政と対峙するような納税者の権利擁護に繋がる法改正は必要なはずである。