研修の受講義務について考える。

 2022年10月28日

(第577号掲載)

 税理士が社会経済において果たすべき役割は、納税義務の適正な実現を図ることである。そのことは、税理士法第1条に規定する「税理士の使命」の実現であり、今日の申告納税制度を支える重要な骨幹でもあります。また、税理士の社会的信頼並びに地位の向上にもつながって行くものでもあります。そして、税理士法第1条の「税理士の使命」を遂行する為にも税理士一人一人が税務に関する専門家として資質の向上を図るため日々研鑽を重ねることが大切と考えます。

 令和3年度の東京税理士会における36時間研修受講義務達成者の支部平均割合は、61.7%であると耳にしました。

 36時間の研修受講義務をまず研修の制度面から眺めて見たいと思います。

 まず、税理士法では、「研修」が第三十九条の二に設けられ「税理士は、所属税理士会及び日本税理士会連合会が行う研修を受け、その資質の向上を図るように努めなければならない。」と規定されています。

 東京税理士会会則では、「研修に関する施策」が第60条に設けられ「本会は、税理士の業務の改善進歩及びその資質の向上を図るため、研修その他必要な施策を実施する。」と規定され、続いて「規則への委任」が第60条の2に設けられ「前2条に規定する研修に関し必要な事項は、規則で定める。」と規則への委任がなされています。

 研修規則では、「研修の定義」が第2条に設けられ「この規則において研修とは、税理士の業務の改善進歩及びその資質の向上を図ることを目的として、本会及び日本税理士会連合会(以下「連合会」という。)が行う研修会、講演会、討論会その他これらに準ずるものをいう。」と規定されています。続いて、「研修の科目」が第4条に設けられ「研修の科目は、次の各号に掲げるものとする。

1.税理士法その他職業倫理に関するもの

2.租税法及び会計に関するもの

3.公益的業務に関するもの

4.情報処理に関するもの

5.法律、経済、経営その他税理士の業務の改善進歩及び資質の向上に役立つと認められるもの」と規定されています。

 そして、「研修の受講義務」が第5条に設けられ「税理士会員は、第2条に規定する研修を、一事業年度に36時間以上受けなければならない。」と規定されています。

 要約すると、税理士法では、資質の向上を図るように努めることが求められ、東京税理士会会則では、研修に関し必要な事項は、規則へ委任され、研修規則で研修の定義、研修科目、そして36時間の受講義務が規定されています。

 以上の流れで研修の会則義務化が確認出来るものと思います。

 一方、研修の環境面についても眺めて見たいと思います。

 東京税理士会並びに各支部では、税制改正、年末調整、確定申告についての研修会や様々なテーマの研修会が企画され実施されています。また、日税連、東京税理士会では多くの研修機会の提供を目的としてマルチメディアによる研修受講も整備され、内容的にも充実したものとなっています。

 そもそも研修を受講する目的は何なのでしょうか。究極的には、納税義務の適正な実現を図ることを目的として、複雑化する税法、納税者からの多様化した依頼内容等々に応えるためであり、その為に資質の向上が必要であることから新しい知識を身につけるたに研修を受講するのでしょう。現状としては、研修時間が36時間に達したか否かが話題となり「あと何時間研修を受講しなくては、」等々、研修の受講時間を気にする声を多く聞きます。これでは研修を36時間受講することが目的となってしまっており、一つの基準として「目標である36時間という基準」を利用する価値はあると思いますが、研修受講の36時間だけに目を向けてしまっては、目的と目標とをはき違えてしまっているのではないでしょうか。

 資質の向上としての研修は自己研鑽が原則であり、その為の一つの方法として東京税理士会並びに各支部が行う研修会、マルチメディア研修を利用することは大いに有効であると考えます。そしてその結果としての研修の受講時間が36時間を超えることは、一つの基準として有効であると考えます。日々、一人一人の税理士が研鑽を積めば、国民が安心して依頼し、そして信頼される国民のための税理士制度が確立されるものと考えます。

 今年度も半分が過ぎ、折り返しとなりました。あと何時間研修を受講すると36時間を達成出来るのかな。(笑)