日税連はインボイス制度導入反対をつらぬけ。

 2021年11月15日

新宿支部  菊池 純

(第565号掲載)

1.はじめに

 品目ごとの消費税率や税額、課税事業者の登録番号などを請求書に記す「インボイス制度」(適格請求書等保存方式)が2023年10月1日に導入されるのに向け、今年10月にインボイスを発行する事業者の申請が始まる。

 インボイスを発行しない事業者は取引先から外されてしまうリスクがある一方、免税事業者は、インボイスの登録申請ができない。

 免税事業者がインボイスを発行するためには、「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となったうえで登録申請をする必要がある。

2.免税事業者はどうするか

 個人経営の店舗など小規模事業者の場合、煩雑な税務をこなすことが難しいため、現状では課税売上高が年間1000万円以下の業者には、免税事業者として消費税の納付が免除されている。

 これまでの消費税に関する取扱いは、仕入先が免税事業者でも課税事業者は仕入れ税額控除ができた。

 しかし、インボイス制度導入後は、免税事業者が消費税を請求すること自体が違法になり、インボイスも発行できない。

 事業者も、インボイスがなければ仕入税額控除ができず、消費税の納税額が増えるため、請求書に課税事業者登録番号が記載されているかどうかチェックをして、インボイスを発行できない事業者を取引から排除することになる。

 ここからいえることは、インボイス制度が導入されれば、免税事業者は課税事業者になるか廃業するかしかない。免税点制度は実質的に崩壊する。

3.課税事業者すべてが消費税の申告をすることは可能か?

 課税事業者の選択を考えねばならない業種は、建設業等の一人親方、個人タクシー、赤帽などの運送業、生保・損保の代理店、ヤクルトレディー、映画・演劇・音楽・英語教室の教師、イラストレーター・出版関係、シルバー人材センターで働く事業者等と多岐にわたる。

 平成30年度の資料によると、約800万事業者のうち免税事業者の総数は約500万事業者、個人事業者の75.1%、法人事業者の31.9%となっている。

 この500万事業者が課税事業者になり消費税の申告をすることは可能だろうか。

 零細事業者の事務負担に配慮する形で設けられている免税点制度は、インボイス導入で崩壊することになるのではないか。

4.インボイス制度の問題点

 インボイス制度の問題点は、上記のように免税点制度が崩壊し、零細な免税事業者が課税選択をせざるを得ないことが社会問題化することに加え、次のような問題点も指摘できる。

(1)日本の経済に大打撃

 例えば、サラリーマンが小さな土地を持っていて駐車場を経営していたとする。そこを借りている企業は近くて便利等の理由で借りている。それを課税仕入れにならないという理由で解約したら経済効率が下がり、日本経済全体に悪影響を与える。

インボイス制度導入は、年間数点しか作れない熟練の職人を、余人に代えがたいと選んでいた企業の取引をなくしてしまう。これは頼んでいた企業にとっても大打撃になる。

 選ぶ方は課税事業者かそうでないかで選んでいるのではなく、その取引が経済効率から一番いいと選んでいるのだ。

(2)働き方改革に逆行する

 働き方改革は国が「労働時間の短縮と労働条件の改善」「雇用形態にかかわらない公正な特遇の確保」「多様な雇用形態の普及」「仕事と生活(育児、介護、治療)の両立」を目的として2019年4月にスタートさせた制度である。

 一見働き手を護るように見える制度だが、残業が少なくなり給与が減ったり、継続雇用してもらえずリストラにあうケースも見受けられる。

 そのため就業形態として「雇用される」のでなく、フリーランスとして「業務委託契約」を結び売上歩合で働く人も増えてきている。

 この動きは、個人事業主になった人の立場にたつと、課税事業者にならないとインボイスを発行できないことになる。また、企業にとって個人事業主化社員を社内に置くことは、課税仕入れにできる、職務能力の充実、経費の削減、リスク管理等のメリットがあるが、インボイス制度導入によって働き方改革は阻害される恐れがある。

(3)記入済み申告制度

 2018年12月25日 日経朝刊に森信茂樹氏が「この制度はIT(情報技術)発達の成果を納税申告の利便性向上に活用するものだ。税務当局が予め得ている情報を納税者の申告書に記入して電子的に送付し、納税者はその内容を確認して、必要に応じて加筆・修正したうえで、税務当局に送付することで申告を完了する制度だ。」と述べている。

 「実質的に免税事業者がいなくなると、インボイスが紙から電子インボイスになり、キャッシュレス化の進行と併せて、すべての取引が瞬時に国税庁に集積される。 ・・中略・・デジタル社会では、事業者のプライバシーも消費者のプライバシーも申告納税制度もすべて失われる。その入り口がインボイス制度の導入だ。」(インボイス制度導入の問題点・元静岡大学教授・税理士 湖東京至)という指摘もある。

5.日本税理士会連合会建議書

 2020年6月の日本税理士会連合会(以下、「日税連」)の「令和3年度税制改正に関する建議書」には、「令和5年 10 月に予定されている適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス方式)について は、事業者及び税務官公署の事務に過度な負担を生じさせることから、行政手続コスト削減の方向性に逆行することのないように見直しをする必要がある。また、新型コロナウイルス感染症の拡大による危機的な経済情勢下にあっては、準備期間等を考慮すれば、少なくとも適格請求書等保存方式の導入時期については延期すべきである。」と見直し、延期を建議している。

 一方、「基準期間における課税売上高による納税義務の判定を廃止し、すべての事業者を課税事業者とした上で、当年又は当事業年度の課税売上高が一定額以下の場合は、選択による申告不要制度等を創設すべきである。」として、全事業者が課税事業者になったうえでの申告不要制度も建議しているが、是ではインボイス制度を容認したのと同じである。

 売上高がいくら以下で申告不要にするとまでは述べていないが、例えば300万円とした場合、免税点が300万円に下がったことと同じ形になり、インボイス制度導入の落としどころとなってしまう。

6.東京税理士会意見書と東京税理士政治連盟

 東京税理士会の「令和4年度税制及び税務行政の改正に関する意見書」(令和3年3月18日)は、適格請求書等保存方式について、①導入により免税事業者が取引から排除されるおそれがあること、②仕入税額控除の可否を判断するために増加する事務負担への対応が困難であることなどの理由から導入に反対している。

 東京税理士政治連盟は、平成28年度税制改正法の附則171条2項(※1)に規定されている軽減税率制度導入後3年以内を目途に行うとされている事業者の準備状況などの検証作業に注目して、インボイス発行事業者の登録申請が始まる10月を前に反対運動を強めている。なぜなら、コロナ禍で事業存続の危機に直面している中小企業や個人事業主が、インボイス制度に対応できない実情も明らかになっているからだ。

 さらに、2023年10月までまだ時間があるという声もある中、いったん歯車が動き出したら止めるのは難しくなるのもよくわかっている。

 今こそ日税連も、インボイス制度導入が廃業の決め手となったという事態を避けるためには、申告不要制度の提案を一度おろし、軽減税率廃止、インボイス制度導入反対をつらぬいてほしい。

7.終わりに

 イギリスは半世紀ぶりに法人税増税を決め、2023年に法人税率を現在の19%から25%に引き上げると発表した。アメリカのバイデン政権も、法人税率を21%から28%に引き上げ、所得40万ドル(約4360万円)以上の納税者には、17年に成立した減税その他の優遇措置を停止するという税制改革を公約に掲げている。さらにアメリカは、法人税の最低水準導入を各国に呼びかけ、減税競争に終止符を打たねばならないとしている。

 安倍晋三前首相は、2019年10月の消費税率の10%への引き上げに関し「リーマン・ショック級の大きな影響、経済的な緊縮状況が起これば、判断しなければならない」と増税先送りの余地も残していた。

 政府・与党もリーマンを上回る規模と認めているコロナ禍での経済危機。そもそも消費税増税で経済が悪化しているところにやってきたコロナ禍。

 コロナ後の国民のための税制には、消費税税率引き下げ、複数税率廃止、インボイス制度導入阻止が必要である。税収不足分はアメリカの政策のような法人税増税、富裕層の所得税増税等応能負担原則に則った形で賄うべきである。