将来的税務相談について

 2021年04月19日

第562・563号掲載

 2019年4月に日本税理士会連合会制度部が取りまとめた「次期税理士法改正に関する答申」において、引き続き検討を要するとされた項目について、東京会制度部が意見を取りまとめ、本年1月19日開催の第7回理事会において報告事項として発表された。

 引き続き検討を要する項目には税理士の使命の見直し、税理士業務について、試験制度の見直し、一人税理士法人制度の創設等8項目あるが、その中から税理士業務における将来的税務相談の位置付けについて考えてみたい。

 税理士法第2条1項3号の税務相談は、当初「申告、申請、不服申立て、過誤納税金の還付の請求その他の事項につき相談に応ずること。」とされていたが、あまりにも漠然としていて適当ではないとする政府税制調査会の答申などを受けて、昭和55年税理士法改正によって現行法のように規定されたものである。

 東京会制度部は将来的税務相談を、現実の納税義務を伴わない、将来的な課税要件事実の発生を前提とする個別の税額計算等に関する事項の相談であると、意義を明らかにして、相続財産等を提示され具体的な数値等に基づいた税負担額などの試算を行うケースは、納税義務者の具体的事案を根拠としており、また「税務代理」の対象となりうる納税申告の内容をなすものであり、税務相談そのものと言える。従って、将来的税務相談は「税務相談」と見做すべきであると結論付けている。

 東京会制度部の意見は1993年東京税理士会「税理士法改正要綱」の考え方をベースに検討されたものと思われるが、いささか解釈論に重点が片寄ってはいないであろうか。

 現行の第2条1項3号は税務相談を、税務官公署に対する申告等…略…又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることをいうと規定している。ここにいう申告等は、第2条1項1号「税務代理」において、「税務官公署に対する租税に関する法令…略…の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立てをいう。」とされている。申告書等の作成についても、2項「税務書類の作成」の規定のなかで、申告等に係る申告書等とされている。これらの条文を文理解釈する場合において、少なくとも申告については現実の納税義務が成立していて、その納税義務を確定させる行為と考えられる。従って、現実の納税義務を伴わない将来的な課税要件事実の発生を前提とする個別の税額計算等に関する事項は、申告等に該当しないことは明らかではないか。そうなると将来的税務相談は「税務相談」と見做すべきであると結論付けることは、牽強付会の感を拭えないものと言わざるを得ない。

 非税理士の行う税理士業務類似行為によって起こり得る不測の被害から納税者を護るという視点から問題を整理してみる。東京会制度部の意見も、税理士の使命の見直しの必要性の項で述べているように、「税理士の使命」は納税者の権利利益を擁護し、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることであることに鑑みると、将来生ずる納税義務に関して、特定の時に特定の租税要件が充足されるといった個別具体的な事柄を明示した租税に関する相談は、「税務相談」の対象として保護されるべきものと考えられる。

 よって将来的税務相談については、納税者の権利利益を擁護する観点から、立法事実を明らかにした上で法改正によって、「税務相談」に該当することを明定すべきものと思料する。