収入850万円未満、所得655万5千円未満、これ何の数字かわかりますか?

 2021年11月15日
新宿支部   菊池 純

(第562・563合併号掲載)

 この数字は、遺族厚生年金の受給対象者になれる人の収入要件で、亡くなった人によって生計が維持されていたと証明するためには、原則として遺族の前年の収入が850万円未満であること、または所得が655万5千円未満であることが条件になる。

 なんでこんなことを言い出したかというと、話は昨年の8月にさかのぼる。

 8月に顧問で伺った会社の奥さん(4年前に会社の社長だったご主人と死に別れている)からいきなり、「なんで主人の亡くなる前年の私の所得を下げておいてくれなかったんですか。そのせいで遺族年金がもらえなくなったんですよ。」と怒られた。

 突然の話で困惑したが、徐々に4年前のことを思い出した。相続でバタバタしているとき、奥さんが私に「年金事務所に去年の自分の確定申告書をもって行ってきました。結果はほんの50万円ほど所得が多くて、遺族年金がもらえなくなりました。」とおっしゃった。私は、確か「奥さんの所得が今後下がればもらえるようになるのではないですか」のようなことを言ってお茶を濁していた。自分の役割だと思っていなかったのだと思う。

 「ご主人の亡くなる前年の奥さんの所得なんて、増やしたり減らしたり私ができるわけないじゃないですか。」と言いながら、なんとかする方法はなかったのかと考えた。

 奥さんが悲しむのも無理はない。例えば前年所得が600万円の人ならその後どんなに所得が増えても遺族年金は生涯もらえる。逆に、奥さんのように前年所得が700万円の人なら、その後どんなに所得が減ろうが遺族年金は一生もらえない。

 遺族年金をもらうための、生計維持対象者の収入要件について再度調べてみた。

 上記2つの収入要件に加え3つ目は、一時的な所得があるときは、一時的な所得を除いた後の金額で判定する。

 4つ目は、今までの3つの要件を満たさないが、定年退職等の事情により、おおむね5年以内に上記二つの収入要件に当てはまる。

 あれ、奥さんのケースは4つ目の条件に当てはまるのではないか。奥さんの前年所得700万円のうち約半分の340万円が亡くなったご主人からの青色事業専従者給与に係る給与所得で、5年以内どころか亡くなった時点で退職になる。

 私も亡くなった日に退職処理をしており、奥さんの所得も相続開始後は300万円前後に推移している。

 早速年金事務所に連絡し、予約を取って相談に行った。

 年金事務所の相談担当社会保険労務士が言うには、「家族で経営している法人があり、ご主人がなくなった後奥さんが社長になっているから遺族年金はもらえないと思う。」の一点張り。ご主人が亡くなるまで奥さんが受給していたのは青色事業専従者給与で、法人からの給与はまったく受給していないのにである。そういえば、奥さんが4年前年金事務所に相談に行ったときも、退職の話など何も出ず「50万円基準を超えているから、あなたは遺族年金をもらえない。」と断言されたとの事。

 日を改めて、5年以内に退職している旨の上申書を提出10月21日遺族年金を受給できる旨の書類が届き、無事受給が決まった。5年間以内の遡及に間に合い、今年の2月に4年半分520万円がまとめて振り込まれた。

 今後私は税理士として、相続の後の遺族年金の申請には必ず着いて行こうと考えている。

 社会保険事務所も、その人の一生を左右させる(今度の場合奥さんが80歳まで生きたら約3000万円の収入差)所得による判定をするのなら、判定に税の専門家の税理士も加えなければならないと強く思う。

 遡及できない時期になってから判定の間違えに気づいたらと考えるとぞっとするし、まだ気づいていない被害者もたくさんいるのでは、と推測する。