令和6年分の所得税の定額減税

 2024年08月28日

(第593号掲載)

 令和6年度の税制改正において、令和6年分所得税ついて定額減税が実施される。令和6年6月1日以後に支払われる給与等につき源泉徴収される税額から定額減税を行うこととなる。給与等支払者はこの事務手続について正確に理解しいるのであろうか?関与先に「令和6年分の所得税の定額減税のしかた」という説明書が郵送されてきているが、封も切らずに事務所に届けてくる関与先が多い。概要を説明してもなかなか理解していただけない。

(1) 定額減税の対象者…6月1日現在給与支払者に令和6年分の扶養控除等申告書を提出している給与所得者(甲欄適用者)で、年収2,000万円以下の居住者。   

(2) 定額減税額は、納税者本人30,000円・同一生計配偶者30,000円・扶養親族1人につき30,000円で計算する。扶養親族については所得税法上の控除対象扶養親族だけでなく、16歳未満の扶養親族も含まれる。まず給与支払者はこの控除対象者の確認を6月1日以降に支払う給与の支給までにしなければならない。

(3) 月次減税額は、(2)で確認した控除対象者の数×30,000円を6月に支払う給与・賞与から天引きする源泉徴収税額から控除する。6月の源泉徴収税額で控除不足が出た場合順次7月以降の給与等の税額から控除する。このため各人別控除事績簿と源泉徴収簿への記載が必要となる。また控除対象者は6月1日現在の人数で計算しその後移動があった場合は年末調整又は確定申告で調整することとなり月次減税額を再計算することはない。源泉徴収簿には各月の源泉徴収税額を記載して、その下に控除した金額をマイナスで記載することとなる。    

(4) 各人の給与明細には、定額減税額の記載が必要となる。退職した従業員の源泉徴収票には摘要欄に「源泉徴収時所得税減税控除済額***円」の記載が必要。

(5) 年末調整減税事務…年末調整の際の定額減税額に基づき年間所得税額の精算を行う。年末調整を行わず退職した者や令和6年分の給与の収入金額が2,000万円超の者は確定申告により定額減税処理を行うこととなる。
 関与先で給与計算ソフトを利用している場合、各ベンダーから給与ソフトのバージョンアップの連絡がきていると思う。各社によって対応は異なると思うが、国税庁公開の「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」には対応しない。
 各人別控除事績簿の作成・月次減税の額の計算・給与計算・給与明細書等には対応するなど、関与先は定額減税のための事務手続、ソフトのバージョンアップ料金の負担など大変な思いをしている。月次減税事務は行わず、年末調整減税事務で行おうと思っていたら、関与先では給与ソフトのバージョンアップを行う予定と聞き、問題がなければいいなと感じている。

(6) 個人事業者の定額減税…事業所得・不動産所得がある個人事業主の定額減税は原則として令和6年分の確定申告において行われる。但し令和6年分の予定納税がある者(予定納税基準額が15万円以上の者)は、第1期の予定納税額の際本人分30,000円が控除される。配偶者や扶養親族の定額減税額を予定納税額から控除する場合は、予定納税の減額申請書を7月31日までに提出する必要がある。よって令和6年分第1期予定納税額の納期限は9月30日となる予定。

 電子申告している関与先のメッセージボックスに定額減税の通知が送信されている。国税庁のHPには「定額減税特設サイト」が設けられ、定額減税コールセンターの開設・説明会の案内・定額減税チャットボットの運用・各人別控除事績簿Excel等の案内がされている。また「令和6年分所得税の定額減税Q&A」(令和6年4月改訂版)が給与支払者の事務の参考とするように掲載されている。東京税理士会でも、東京会メールニュースによる送信やHPに掲載して会員に対し周知しているが、詳しくは国税庁のHPをご覧下さいとなっている。「こんなにめんどうな特別減税であれば、給付金にしてくれればよかったのに」という関与先の言葉にうなずくのみである。