令和4年税理士法改正をうけて

 2024年08月28日

(第589号掲載)

 令和4年3月の税理士法改正法案成立から1年8ヶ月を経て、一部を除き、ほとんどの各改正項目が施行された。各項目における改正後の評価は時間が経つに従ってより明らかになっていくと思慮されるが、この改正において一番のトピックスは、税理士の業務を規定している2条に、2条の2補佐人制度に続いて枝番を設けて、2条の3として、「税理士は、第2条の業務を行うに当たっては、同条第1項各号に掲げる事務及び同条第2項の事務における電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他情報通信の技術を利用する方法をいう。第49条の2第2項第8号において同じ。)の積極的な利用その他の取組を通じて、納税義務者の利便の向上及びその業務の改善進歩を図るよう努力するものとする。」という電子化等の推進の努力義務規定が入ったことだった。

 この条文、違和感を覚える方も多いと思うが、そもそもICT化推進が税理士の業務なのか、業務の規定のはずなのに努力義務となっている、納税者の利便性向上をも目的としていること、などが原因と思われる。デジタル化の進展に伴って様々な業務の進め方が変わってきており、税理士は生き残りをかけて遅れをとらないようにしなければならなくなってきている昨今であり、ICT化推進自体は全く否定することころではないが、これを税理士法に業務として記載する必要がどこにあるのだろう。調べた限りでは、他の士業でもデジタル化は進んでいるが、このような条項は見当たらない。そして、努力義務の規定を2条に入れるのは条文の構成上疑問符が付くと言わざるを得ない。また、納税者の利便性向上は国または役所が目指すべきものであり、税理士が業務として行うものではない。将来的なデジタルインボイスの導入や電子申告全面義務化への布石だろうか?本来、税理士が目指すべきは1条の納税義務の適正な実現である。

 平成18年に国から示された骨太の方針に基けば、財務省が税理士法を見直す周期は5年とされている。その通りに事が進むと、令和5年も終わりに近づいており、約3年数ヶ月後の令和9年には改正されるはずである。近年、税理士法改正は「所得税法等を一部改正する法律案」の一部として閣法で法案が提出される。閣法ゆえに行政寄りの改正案のみしか取り上げられない等の弊害もある。税理士会の主張を通すために議員立法で提案できないものだろうか?

 次期の改正議論にあたっては、枝葉末節的なものではなく、より大きな視点に立ったグランドデザインを示して、見直しを図ってほしい。そのためには全体を貫く思想信条が必要であり、それが1条の改正であり、権利憲章の制定、自治権の確立へと繋がっていくのである。

 1条については、令和4年改正では引き続き検討を要する項目とされてしまったが、1条の使命規定に「納税者の権利擁護」を明記することが重要である。日税連制度部が今回の改正前に答申の意見募集をした際にも同様の意見が多数寄せられたと聞いている。実務上、納税者の代理人である税理士が納税者の権利擁護を図らないなどと言う事があるのだろうか。国会答弁でも過去に国側は「納税者の権利を擁護することは適正な納税義務の実現の中に含まれている」と答弁しているが、独立した公正な立場という表現のみではなく、納税者の権利擁護を明確にすべきだ。平成5年に東京税理士会で機関決定された「税理士法改正要綱-21世紀へ向けての税理士制度の構想-」(通称:グリーンブック、以下「グリーンブック」という。)では、第1条に2項を設け、「税理士は、申告納税制度の理念にそって、納税者の権利利益を擁護するとともに、租税制度の発展に努力しなければならない。」とし、税理士の使命の明確化を図るとしている。

 成熟した社会では、納税者と国側相互の信頼関係に基いた税務行政の執行が必要であるはずである。もちろん申告納税制度もその一旦を担うものであるが、もう一歩進めて、納税者権利憲章の制定を図り、納税者の協力をより仰ぎ易い体制の整備をすべきである。さらに、税理士会の自治権を確立し、行政、納税者、税理士の三者が平等な関係性を築くことが必要なのではないだろうか?

 自治権の確立について、グリーンブックでは、日本税理士会連合会を日本税理士連合会とし、財務大臣による総会決議の取消し権の削除を求め、懲戒権を税理士会へ委ねること等を求めている。

 個々の税理士がその機関決定に参加できない制度設計となっている日税連の位置づけだが、その日税連が定めた会則を個々の税理士は守らなければならないこととなっており、民主的な仕組みとなっていない。自治権確立へは膨大な作業になると思われるが、まずは日税連のより民主的な運営から始めることが先決である。

 グリーンブックについては、平成5年度から平成16年度の間、東京税理士会の定期総会において、事業計画の重点施策として、その理念を実現すると毎年決議されてきたが、なぜか平成17年度からは削除されてしまった。平成5年から約30年経った今も税理士及び税理士会が寄るべき信条がここにある。現状はとても残念だ。今後もグリーンブックの理念を取り入れて、改正に向かって行かねばならないと思う。この原稿を書くために気がついたのだが、グリーンブックが税理士会のホームページにアーカイブされていないので、今の税理士は知る術がない。是非とも誰もが参考と出来るようにアーカイブしてほしいと思う。

 今後の税理士法改正の過程では、改正案の成立前の最終局面において、答申とはかけ離れた内容や答申に挙げられていない改正項目に関しては理事会での審議を必ず経るなどの作業が必要であり、会員の意見を軽視せずに十分に反映してもらいたい。その経緯が途中でブラックボックス化してしまい、一部の高度な政治的判断等によって多くの税理士が望まない改正とならないように切に願う。