今こそ納税者権利憲章を

 2025年12月08日

(第609号掲載)

 今年1月に開会した第217回国会において、3月31日に可決成立した「令和7年度の所得税法等の一部を改正する法律案」の衆参両院の付帯決議に、納税者権利憲章に関する規定が盛り込まれました。

 十三 税務行政において納税者の権利利益の保護を図り、税務行政に対する国民の信頼醸成や適性を確保するため、納税者権利憲章の策定を含め納税環境整備について検討を行い、その実現に努めること。

 2011年1月に時の与党である民主党政権が国会に提出した「所得税法等の一部を改正する法律案」には、納税環境整備の一環として「納税者権利憲章の策定」が盛り込まれていました。

・名称は「納税者権利憲章」とする。

 ・2011年中に策定し、2012年1月に公表予定。

 ・国税通則法に納税者の権利利益を図る趣旨を明記するとともに、「納税者権利憲章」の策定を義務付け、

策定根拠、記載内容を定める。

 ・「納税者権利憲章」は行政文書として国税庁長官が作成・公表する。

 ・「納税者権利憲章」の内容については凡そ次のとおりとされていた。

   納税者の自主的な申告納税を援助する各種サービスを明らかにする。

   税務手続きにおける納税者の権利利益を明らかにし、納税者・国税庁の役割を示す。

   納税者が処分に不服がある場合の権利救済手続き、税務行政に対する苦情等への対応を明らかにする。

   国税庁の使命、税務職員の行動規範を示す。

 以上のような提案内容であったが、野党である自民党などの猛反対で納税者権利憲章に関する部分は見送りとされ、この提案は実現しなかった。

 納税者権利憲章の必要性は今更指摘するまでもないが、納税者の権利保護法・権利憲章は世界的に社会インフラの一部となっている。このような状況下においては、権利憲章策定の是非は問われるべくもなく、現在の論点は、どのような納税者権利憲章が制定されるべきかであろう。

 上記の民主党提案の納税者権利憲章では抽象的な表現であった納税者の権利利益については、以下のように具体的に表記されるべきである。

 ・税務行政庁から公正で丁重かつ配慮ある対応を受ける権利を有する。

 ・納税者自ら行った申告について、具体的確証がない限り、真実性・誠実性が推定され、適正なものとして尊重される権利を有する。

 ・自己の税務情報に関し法律の定める目的以外にその情報を利用されない権利を有する。

 ・税務調査に際して、事前通知と調査結果の通知を受ける権利を有し、その調査に関し適正な手続きを受ける権利を有する。

 ・税務処分に対し、不服を申し立てるか、直ちに訴訟を起こす権利を有し、係争中は係争額を納付する義務を負わない。

 以上に加えて、今日的な問題として税務行政庁のDX化に伴う権利保障、救済などに配慮した事柄についても盛り込まれなければならない。

 いずれにしても衆参両院の付帯決議に納税者権利憲章の策定が盛り込まれたことを好機 として、是非とも納税者権利憲章が制定されるよう願ってやまない。