インボイス制度が開始してから半年が経過して

 2024年08月28日

(第594号掲載)

 インボイス制度が開始してから半年が経過した。実務が始まり、困った事例、こうやって乗り切ったけど非常に悩んだ、という事例が今、潜在化してきているのではないだろうか。

 制度開始前、業種・業態・規模に応じて個別に検討すべきことは様々あった。私の事務所も、お客様が困らないよう、対応してきたが、そうはいっても始まってからでないと予測できなかった事例が多すぎて、その都度、あのわかりにくく、どんどん追加されて変容していった特例、膨大な国税庁Q&Aを読み解き、どれにあてはまるか等を検討するのは容易ではなかった。

 具体例として、2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)での経験を話したい。それを適用するか否かを検討したのは、既存のお客様の中では、個人事業者が大半だった。法人のお客様の中にも、消費税法上の課税事業を主たる事業としない非営利法人や医療法人はあり、これを機に2割特例を検討した先もあったが、一般事業法人の多くは消費税法上の課税事業者であり、その大半は既に課税事業者だった。2割特例の適用を検討した個人事業主、例えば、農業を営みながら居住用マンションを所有されている個人であれば、農業収入が1千万円以下の場合はインボイス制度開始前までは消費税の申告は選択されてない方が大半である。それが、インボイス制度がいよいよ始まるときに、農業の取引先からT番号を持ってないと取引継続に難色を示されるようになり、多くの農家さんがT番号取得を選択された。農協特例はあるが、近年では農協以外、スーパー等の小売店やレストランへ直接販売する農家さんも増えている。農業収入は1千万以下でも、不動産収入があるような方は、我々のような専門家へ税務申告を依頼しているので、T番号の取得が消費税の課税事業者になることを意味し、消費税の申告と納税の義務が伴うことを丁寧に説明した上で、適格事業者になることを選択される方が結構いらした。

 その中のご家族の中で今回、相続が発生した。被相続人の基準期間の売上高は1000万円を超え、インボイスも取得していた。一方、相続人の基準期間の売上高は1000万円以下だったがインボイスを登録していた。この場合、相続により事業承継した相続人は、2割特例を使えない課税事業者になると思っていたのだが、よくよく調べてみると、相続人のインボイス登録が相続日以前であれば、相続があった年は2割特例の適用を受けることができるという改正法附則を見つけた。特例を使えて良かったと思うと同時に、何か気づいていない落とし穴がありそうで怖い。このような事例は他にもあるだろう。税理士が読んでも難解な法改正である。

 税理士、いや農協さえもさほど関わってない農家さん達は、T番号の取得の先に申告納税義務があることさえ、理解してなかった方たちも大勢いるのではないだろうか。取引先にT番号を持ってないと取引継続は難しいと言われて、とりあえず取得したという方もいるのではないだろうか。私どもの顧問先が、近隣の農家さんと話をしていたら、T番号は取得した(させられた)けども、消費税申告はウチのような零細農家には関係ないでしょう・・・と話していた方がいらしたらしく、それを聞いた当初は、そんな方がいることが信じられなかったが、申告義務があるのは当たり前と考えているのは我々だけで、さもありなん、の世界かもしれない。インボイスの登録件数と消費税申告件数の誤差はどの程度あるのだろう。

 法律は難しい。国税庁Q&Aも膨大すぎて、難解である。一般の方は理解が容易ではないと思う。特例という名の、国民へ一見アメを見せながら、小手先の改正を繰り返し、税制を複雑化させ、この国の税収のあるべき姿が国民には見えてこない。国は事業者に消費税を正確に納めていただくためにインボイス制度が必要と考えるのであれば、公平な制度となるよう国民への周知を、これからも丁寧に続けてゆくべきである。そして誰もがわかりやすい法改正にとどめるべきである。