どうする ! 税務相談
(第581号掲載)
昨年12月に公表された与党の令和5年度税制改正大綱において、税理士制度に関する項目で目に付くものは、「税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令制度の創設等」であろうと考えます。その概要は以下の通りです。
財務大臣は、税理士等でない者が税務相談を行った場合において、更に反復してその税務相談が行われることにより、不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れさせ、又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けさせることによる納税義務の適正な実現に重大な影響を及ぼすことを防止するため緊急に措置をとる必要があると認めるときは、その税理士等でない者に対し、その税務相談の停止その他その停止が実効的に行われることを確保するために必要な措置を講ずることを命ずることができる、とするものです。
合わせて、このことに関しての質問検査権を確保し、この質問検査等に対する拒否又は虚偽答弁等については、罰則を設けることとし、この命令違反については1年以下の懲役又は100万円以下の罰金を科すこととしています。
このような規定は本来あって然るべきものと考えられますが、そもそも税務相談の意義はどのようなものと解すべきでしょうか。
税理士法上の「税務相談」とは、昭和26年の制定時は、「申告、申請、不服申立て、過誤納税金の還付の請求その他の事項につき相談に応ずること。」と規定されていました。
日税連は昭和47年に「税理士法改正に関する基本要綱」を機関決定し公表しましたが、その中で、法文上明確を欠くので、税務書類の作成に関する相談も、税務相談に含まれる旨、明確に規定すべきであると、述べています。
これについては昭和55年の税理士法改正より、税務相談は、税務官公署に対する申告等、第1号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることをいうと、改められ現在に至っています。
東京税理士会では平成5年に、次なる税理士法改正への提言を、2年にわたる検討作業をもとに「税理士法改正要綱」(通称、グリーンブック)として取りまとめ公表しました。
グリーンブックでは税務相談に関して、将来的な課税要件事実の発生を前提とする個別の税額計算等に関する事項の相談(以下、将来的税務相談)が、税務相談に含まれることが必ずしも明確ではないので、明文化すべきであると述べています。
その理由として、金融機関、不動産会社等による「税務相談会」が頻繁に開催されているが、これらの相談行為は将来的税務相談であり、税理士業務と解することができると思われる。この状況を看過すると税務代理等税理士業務への侵害にも繋がる恐れがある。そのため単に税理士業界の職域防衛というだけではなく、税理士資格のない者の税理士業務類似行為によって起こり得る不測の被害から納税者を護るということであり、国家的見地からも早急な対応が望まれるとしています。
税務相談に将来的税務相談が含まれるのか。解釈論としてはあり得ると思われますが、現行条文を文理解釈すれば、含まれるとは解せないと考えます。
その後平成13年、26年に相当規模の税理士法改正がありましたが、税務相談についての改正はなされていません。
上述の「税務相談会」については、運営上は開催者が税理士を委嘱することで、合法的に開催されているように見えますが、行為主体は営利企業であり、根本的な解決策とはなっていないと考えられます。
近頃では国税庁が個人の国税(所得税、消費税)に関する相談を、チャットボット(ふたば)で自動回答するというシステムを公開しているようです。想定される質問に対する回答を用意して、それぞれの相談(質問)にAIを利用して回答をマッチングさせるもののようです。現状はこの程度のものですが、将来的には本格的なAI税務相談システム等も登場することが想定されます。
そのような時代の税務相談の在り方を、今から検討し始める必要があるのではないでしょうか。