「食料品消費税ゼロ」のカラクリ
「ゼロ税率(0%で課税/免税)」か、「非課税」か? 税理士界は、食料品ゼロ税率で事業者と消費者を守る主張を!
石村 耕治(白鷗大学名誉教授)
(第612号掲載)
◆正体不明の「食料品消費税ゼロ」
2026年2月の衆院選では、与党も「食料品消費税ゼロ」を掲げた。選挙後、社会保障国民会議でこのテーマの議論が始まった。しかし、「ゼロ」の中身は明確にされないまま議論が進んでいる。
実は「ゼロ」には二つある。ひとつは「非課税」、もうひとつは「ゼロ税率(0%で課税/免税)」である。財政当局は、後者「ゼロ税率」の議論を避ける傾向がある。消費税導入時に、財政当局が公的保険適用医療や教育サービスなどへのゼロ税率適用の議論を封じた時と同じ構図である。要するに、仕入税額控除を封じ、税収をできるだけ減らしたくないのだろう。
議員だけでなく、税理士界も「食料品消費税ゼロ」を十分に検討できていない。「ゼロ=非課税」という思い込みが強く、議論が深まりにくい。しかし、消費税の免税・ゼロ税率には、①輸出に使われる「輸出免税」と、②国内取引に使える「国内免税」がある。
【表1】 「ゼロ税率」の種類と活用目的
| ゼロ税率 |
| ①輸出免税/輸出ゼロ税率 【輸出取引に適用】 |
| ②(国内)免税/(国内)ゼロ税率 【基礎的飲食品などに適用】 |
| 消費地(仕向け地)課税原則に基づく |
| 逆進性解消策として活用 |
本来、「消費税ゼロ」の意味は、「非課税」と「免税/ゼロ税率」の違いを踏まえて議論すべきである。財政当局の説明だけに引きずられた、島国的で視野の狭い議論では不十分である。
消費者から見ると、非課税でもゼロ税率でも、どちらも消費税がかからない点は同じに見える。しかし、事業者にとっては決定的に違う。ゼロ税率(0%で課税)なら仕入れ時に払った消費税を控除できる。一方、非課税では仕入れ時に払った消費税控除ができない。その分が「損税」となり、事業者の負担として積み上がる。この負担を避けようとすれば価格へ上乗せせざるを得ず、最終的には消費者が負担することにつながる。とりわけ、インボイス制度で事務負担が重く、価格転嫁が難しい零細事業者にとっては深刻である。損税が積み重なれば、事業の継続そのものが危うくなる。これが「消費税ゼロ」の“カラクリ”である。
◆消費税の枠内での逆進対策とは
消費税(付加価値税)の逆進性を解消策するには、次のような選択ができる。
【表2】 消費税の逆進性解消策の選択
| ①消費税の枠内での逆進対策 |
| ②消費税の枠外での逆進対策【現金給付、所得税 の給付(還付)つき税額控除】 の導入など】 |
選択
政府与党は、当面(2年間)①消費税の枠内での対策を講じ、その後、②消費税の枠外での対策を講じるプランを公表している。
ちなみに、①消費税の枠内での逆進対策としては、次の❶・❷・❸の選択がある。つまり、❶軽減税率➡❷非課税のほか、❶軽減税率➡❸ゼロ税率への転換である。
【表3】 ①消費税の枠内での逆進対策
| ❶複数税率(標準税率および食料品などへの軽減税率)の採用 ❷食料品などへの非課税の採用 ❸食料品などへのゼロ税率の採用 |
英国や旧英領諸国では、消費税の逆進性対策として、「国内免税/国内ゼロ税率」を広く採用している。たとえばオーストラリアの消費税(GST)は、標準税率10%のみで、軽減税率は設けていない。その代わり、基礎的飲食料品、公的医療、教育などに幅広く「国内免税/国内ゼロ税率」を適用している。
【表4】 オーストラリアGST法上の逆進性解消策と対象取引一覧
| 標準税率 | 免税取引/ゼロ税率取引 | 非課税取引/仕入課税取引 | 軽減税率 |
| 10% | ・輸出 ・公的保険医療サービス ・基礎的飲食料品(水道水を含む) ・教育 ・国際運輸 ・非営利/公益活動 ・営農者間農地取引 ・その他 | ・金融取引 ・居住用住宅の貸付(ただしホテルのような事業用居住場所の貸付などを除く。) ・居住用中古住宅取引 ・募金活動 ・その他 | なし |
「免税/ゼロ税率」だと、売上に0%で課税だから、外食を含む食料品を扱う事業者に「損税」が発生しない。事業者は、仕入にかかった税額を控除、実質的には「還付」を受けることができる。
【表5】 標準税率取引・非課税取引・免税取引/ゼロ税率取引比較
| 標準税率取引 | 免税取引/ゼロ税率取引 | 非課税取引 |
| 仕入 税率 [10%] 金額(1,000) 税額[100] 売上 税率 [10%] 金額(1,500) 税額[150] | 仕入 税率 [10%] (1,000) [100] 売上 税率 [0%] (1,500) [0] | 仕入 税率[10%課税] (1,000) [100] 売上 税率[非課税] (1,500) [Nil] |
| 消費税申告税額 50 | 消費税還付税額 100 | 仕入税額控除不可 |
わが国では、財政当局が「国内免税/国内ゼロ税率」を事実上封印してきた。そのため、税理士でも、外国でのゼロ税率の使われ方を知らない人も多い。
◆税理士界の出番
社会保障国民会議の実務者会議は、「食料品消費税ゼロ」の正体を曖昧にしたまま、関係団体や専門家へのヒアリングをするとしている。しかし、これでは、食料品業界への影響を正確に検討できるはずがない。仮に食料品への軽減税率を廃し非課税にすれば、零細小売業者にはインボイスの事務負担に加え、損税が次々と発生しかねないためだ。しかも、2年の経過期間が終われば、食料品も含めてすべて10%の標準税率に戻る可能性が高い。これでは、どうして減税財源試算が必要なのかもわからない。
「消費税ゼロ」の“カラクリ”を糺さないといけない。いまこそ、税理士界の出番である。食料品免税/ゼロ税率という選択肢を正面から提示し、事業者と消費者を守るため専門力を発揮すべきである。
