「論」お客様が理解できない税制

 2024年08月28日

(第592号掲載)

 お客様に税制を説明するのは本当に難しいと最近思う。例えば特例承継税制を考えてみても特例承継計画の提出期限が2年延びたが当初から見ると4年も延長されている。なぜ提出期限が延長されているかというと提出数が少ないからだろうと思うが、その理由は考えると法令の内容が難しすぎて納税者(親子共々)が理解できないからという点もあるのではないだろうか。

 確かに納税猶予されるので素晴らしい税制ができたと考えることもできるが、税理士が研修で一生懸命勉強して、それを納税者に説明しても納税者はさっぱり理解できない。説明が下手だからといわれてしまうとそれまでだが、税理士としては制度のデメリットもしっかりと説明しなければならない。デメリットばかり強調すると今度は納税者が委縮してしまい、それでは適用はやめておきますということになってくる。

 相続事業承継を専門に扱っている税理士法人のお客様へのプレゼンを聞くことも多いが大方特例承継税制は進めない。結局株価を下げて相続時精算課税を選択するという手法が一番多い。結局納税猶予の取消事由の説明を理解してもらうのがあまりにも大変だからである。

 その他にも電子帳簿保存法やインボイス制度も同じである。Q&Aや間違いやすい点などの資料が作成されているがもはやQ&Aの量の多さに笑うしかない。なぜあんなにたくさんの分量が出てくるのか理解に苦しむ。

 お客様は「自分は素人だから」という一言で責任は全部専門家が負うというのはある程度は仕方がないことだろうと思う。そのため損害賠償を防ぐための顧問契約書が大事ということで顧問契約書がものすごく細かく、かつ膨大な条項になってしまっていてそれこそお客様は理解できるのだろうかと思ってしまう。

 なぜ税法がこれほどまでに複雑になっているのだろうか。私が税理士試験を受けていたころ税法はもっとシンプルだったと思う。消費税はアパート節税を防止するために改正を繰り返し不動産業の消費税は大変神経を使うようになった。相続の現場では相続時精算課税を選択した後に110万円の基礎控除が利用できると思ってその後も贈与を繰り返し、その贈与に対して贈与税の申告を行っていない納税者がいる。相続時精算課税を理解して選択したのだろうか?と思ってしまう。もちろん相続時精算課税制度を何度説明しても理解できないお客様も多数いる。挙げればきりがないが小規模宅地の改正も何度も繰り返されてきて要件判断が難しくなってきてしまった。

 結局のところなぜ間違ってしまう(もしくは大量な適用要件がある)税制を立法してしまうのか?ということが不思議でしょうがない。当初の法律にどんどん条文が追加されていき複雑になってしまうのであっていっそのことその特例規定を廃止してシンプルな状態に戻してしまえばいいのではと思う。

 例えば区分所有マンションの評価方法が1月から変更になったが、3年以内取得は取得価額で評価するということにすればよく、例外として路線価が前年より下がった場合には下がった割合で減額すればいいのではないかなど昔の税制を復活させてもいいと思う。

 法人税や所得税は難しい税制でもいいだろう。しかし相続税と消費税は個人や売上げの少ない事業者に影響がある。税制改正要望で新しい特例制度を要望することも多いが、ぜひ間違えやすい、複雑で個人が理解できないような税制を改善するような内容を要望してほしい。個人の青色申告の申請期限は確定申告期限までなのに簡易課税制度の選択適用や不適用は年度末までになぜ提出しないといけないのか?別に税収に大きな影響を与えるわけではないだろう。もう少し国民にも分かりやすい税制にしてほしいと思う今日この頃である。