「給付付き税額控除」

 2026年07月13日

(第612号掲載)

 給付付き税額控除は、所得税を直接減額する「税額控除」と、現金を支給する「給付」という2つの要素を組み合わせた制度。

 この制度の最大のポイントは、税額控除として定められた金額が、実際に納めるべき所得税額を上回った場合、その差額が現金で支給される点にある。

 この仕組みによって、働いても貧しい納税者に税制を通じて給付を行うことができる、とされている。

「社会保障国民会議」は、給付付き税額控除導入ありきで、その「つなぎ」として「2年限定の食料品消費税ゼロ」などが議論されている。

 しかし、給付付き税額控除導入ありきには税理士の視点で、大きな問題があるといわざるを得ない。「論」ではこの問題点を検証する。

  • 給付のために所得税の申告をしなければならない

「ショーシャンクの空に」という映画で、囚人である元銀行員の主人公が、看守たちの確定申告の手伝いをするシーンが出てくる。アメリカでは所得税の申告は給与所得者を含めて全員確定申告をする。そして、誰でも申告の手伝いができる。このことをこの映画で学んだ。

 この前提の元、アメリカでは給付付き税額控除を導入している。そして、様々な税務支援プログラムが組まれ、8万人を超えるボランティアが無償で還付申告を支援している。それでも、給付付き税額控除の申告した者の25%が過誤申告になっている。給付を受けたい人にとって、複雑で税務の知識が伴う申告は難しすぎる。生活が困っている人がわずかばかりの給付を受けるのに、こんなに手続きが複雑なのはだめだ、との声も多い。

その上税務調査のターゲットになり、調査終了まで還付がない。過誤還付は2年間、不正還付は10年間、資格停止処分を受ける。それゆえ、給付を受けられる者の2割が給付付き税額控除の申告を敬遠する。給付漏れである。

日本における所得税の納税手続きは、大部分が会社の「年末調整」

(注)で完結している。確定申告納税者数は約650万〜700万人、全体の15%程度である。

 まして日本では税理士法により、申告相談、申告書作成は税理士以外できない。よってアメリカでかろうじて行っている給付付き税額控除を、日本に導入する素地がない。

(注)年末調整による給付付き税額控除は一度イギリスで試みられた。しかし制度が複雑すぎた等により、現在は税制というより社会保障給付として支給、税額控除から給付制度にシフトしている。さらに、事業所が社会保障の窓口になることも問題がある。

  • 給付が必要かどうかを国が判断するのは困難

 給付付き税額控除は「税と社会保障の一体改革」の掛け声のもと検討されてきた。しかし、「給付を受けるには、「所得制限」をしよう。金持ちには給付をやめよう。財産をチェックしよう。家族、世帯全体の収入の把握が必要だ。」等の声が出てくる。これをクリアするために、マイナンバーで全国民の金融プライバシーを徹底監視する。この制度にはプライバシー権の侵害、国家による監視という憲法違反の要素を伴う仕組みが必要になる。

 やはり社会保障は申請によるべきである。給付を受けないと起ちいかないかは本人が決めるべきもので国家が「お前は困っているから給付してやる」という類のものではない。

3.税政と社会保障を組み合わせることにより複雑な制度になる

 税の3原則は「公平・中立・簡素」である。その中の簡素、「税制の仕組みをできるだけ簡素にし、理解しやすいものにする」には、税と社会保障を分離する現行の仕組みが優れている。

 給付付き税額控除がとん挫した、又はうまくいっていない大きな理由はその複雑さにある。税と社会保障を一体化したために「簡素」が失われた結果である。

 まして日本は、源泉徴収集と年末調整で給与所得者のほとんどの者が所得税納税を終えることができる。税制を複雑にすることはかえって給付を受けるべき人を受けられなくしてしまいかねない。

 加えて、日本の税務支援体制だ。税理士法の無償独占の対象から税務相談、税務書類の作成を外すべき、との意見もあるが、納税者の財産を護る使命がある税理士として改正すべきだと思わない。

税理士界は、給付付き税額控除は導入すべきでないと声を上げるべきである。