電子化される税務調査(2)
(第595号掲載)
令和2年12月「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」が閣議決定され、誰一人取り残さないデジタル社会の実現を謳い文句に、令和3年2月にデジタル改革関連法案が国会へ提出された。
デジタル社会の形成が、我が国の国際競争力の強化及び国民の利便性の向上に資するとともに、急速な少子高齢化の進展へ対応その他の我が国が直面する課題を解決するうえで極めて重要であるとの認識のうえで、デジタル社会の形成に関して基本理念及び基本方針を定めるとして、デジタル社会形成基本法を始めとするデジタル改革関連法案が国会で審議され可決成立した。その結果同年9月にはデジタル庁が発足し、政府あげてデジタル社会の実現を目指すこととなった。
税務行政においても平成29年6月、「税務行政の将来像~スマート化を目指して~」を公表し、税務行政のデジタル化を本格化させている。その後令和3年6月に「税務行政のデジタルトランスフォーメーション―税務行政の将来像2.0―」とタイトルを改めて、進捗状況が公開されている。これによると税務行政のデジタルトランスフォーメーションとは、デジタルを活用した、国税に関する手続や業務の在り方の抜本的な見直しと説明している。
抜本的な見直しとは単に紙の情報を電子データに置き換える、いわゆるデジタイゼイシュンに止まらず、情報を電子的に処理することを前提に、業務そのものを電子化する「デジタライゼイション」を行うこととしている。
また、納税者の利便性の向上と、課税・徴収の効率化・高度化が二つの柱とされている。
令和5年6月には「税務行政のデジタルトランスフォーメーション―税務行政の将来像2023―」が改訂公表された。従来の納税者の利便性の向上と、課税・徴収の効率化・高度化に加えて、事業者のデジタル化促進が三本目の柱として掲げられている。
事業者のデジタル化促進には、経済取引と業務がデジタル化され、事業者の正確性向上等が実現されると、他の事業者のデジタル化も促されるという好循環が生み出され、社会全体のデジタル化・DX化につながり、社会全体にデジタル化のメリットが波及することが期待されると記載している。
課税・徴収の効率化・高度化では、AI・データ分析の活用、オンラインツールの活用、関係機関への照会等のデジタル化が大きな項目として掲げられている。
AI・データ分析の活用では、AIを活用しながら幅広いデータを分析することにより、申告漏れの可能性が高い納税者等の判定や、滞納者の状況に応じた対応の判別を行うなど、課税・徴収の効率化・高度化に取り組むとしている。
具体的には、様々なデータをBA(Business Analytics)ツール・プログラミング言語を用いて統計分析・機関学習等の手法により分析することで、申告漏れの可能性の高い納税者等を判定し、その分析結果を活用することで、効率的な調査・行政指導を実施し、調査必要度の高い納税者には、深度ある調査を行うとしている。
オンラインツールの活用では、税務調査に当たっては、Web会議システムを用いたリモート調査や、e-Taxやオンラインストレージサービスを利用した帳簿書類(データ)のやり取りなど、オンラインツールを積極的に活用していくと記載している。
関係機関への照会等のデジタル化では、税務調査や滞納整理に際して金融機関等に行う現預金等情報の照会について、オンライン照会の対象となる金融機関等を拡大すべく、利用勧奨に取り組むとしている。
このように税務調査の場面においてもデジタル化の影響は大きなものであり、既にこの影響に直面された税理士も多くいることと思われる。
ここで忘れてはならないのは、通常行われる実体税法上の税務調査は、国税通則法74条の2以下に規定された質問検査権の実態的な行使であるということであろう。質問検査権の行使は、合理的必要性がある場合に、その必要性の範囲内で行使しうるのであって、課税庁の裁量権に委ねられたものではないということを念頭に、税務調査の現場に臨まなくてはならない。