税理士法の改正について

 2022年11月07日

渋谷支部 倉林倭男

(第574号掲載)

 令和4年3月22日国会において、税理士法改正を含む「所得税法等の一部を改正する法律案」が可決・成立した。

 今回の改正内容は主に、税理士の業務のICT化推進の明確化として、下記のように税理士法第2条の3を新設、また多様な人材を確保する点から同第5条(受験資格)の要件の見直しとして、会計科目に関する受験資格を廃止し、税法科目に関する学問の範囲を緩和するものである。加えて、税理士に対する信頼の向上を図るための環境整備として、懲戒逃れをする税理士への対応の強化を中心に、同第48条、第55条第2項、第56条を新設するなど法律の規定を整備した。

(税理士の業務における電磁的方法の利用等を通じた納税義務者の利便の向上等)

第2条の3

 税理士は、第2条の業務を行うに当たっては、同条第1項各号に掲げる事務及び同条第2項の事務における電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。第49条の2第2項第8号(新設:筆者注)において同じ。)の積極的な利用その他の取組を通じて、納税義務者の利便の向上及びその業務の改善進歩を図るよう努めるものとする。

(懲戒処分を受けるべきであったことについての決定等)

第48条

 財務大臣は、税理士であった者につき税理士であった期間内に第45条又は第46条に規定する行為又は事実があると認めたときは、当該税理士であった者がこれらの規定による懲戒処分を受けるべきであったことについて決定することができる。この場合において、財務大臣は、当該税理士であった者が受けるべきであった懲戒処分の種類(当該懲戒処分が第44条第2項に掲げる処分である場合には、懲戒処分の種類及び税理士業務の停止をすべき期間)を明らかにしなければならない。

第2項、第3項 省略

(関係人等への協力要請)

第56条

 国税庁長官は、この法律の規定に違反する行為又は事実があると思料するときその他税理士業務の適正な運営を確保するため必要があるときは、関係人又は官公署に対し、当該職員をして、必要な帳簿書類その他の物件の閲覧又は提供その他の協力を求めさせることができる。

 平成26年の税理士法改正も今回と同様、所得税法等の一部を改正する法律案の納税環境整備の一環として行われたもので、公認会計士に係る資格付与の見直し、補助税理士制度の見直し、調査の事前通知の規定の整備等重要な項目についての改正であった。その時にも感じたことだが、今回の法案審議においても実質的な審議がほとんどなされていない。国会議事録を斜め読みしてみたが、衆院財務金融委員会での質疑は、①偽税理士への調査が見送られたが今後どのように検討するのか。②税理士法人の業務範囲の拡大について、その理由と新たな業務とは何か。③受験資格要件は不要ではないか。の3件のみであった。参院財政金融委員会では税理士法改正に関する質疑は見当たらなかった。

 前回も今回も税理士法にとってはかなり重要なテーマであるにもかかわらず、行政の用意した改正案が具体的な審議を尽くされないまま可決・成立しているように思われる。現状喫緊の改正課題があるわけではないと考えるが、今後の税理士法改正は単独法案として改正手続きを進め、充分な審議を尽くせる態勢を作るべく各方面へ働きかけをする必要があるのではないか。