中小企業のデジタル化を阻んでいるのは何か

 2021年11月12日

(第568号掲載)

 中小企業で圧倒的にデジタル化が遅れているのはどうしてなのだろうか。飲食店経営者にはネット利用がスマホでしかできないため、郵送申請のお客様には毎月申請書をプリントアウトして送っているが中には申請を諦めた方々もいると思う。いずれも高齢者かデジタルに弱い方々だ。申請のためだけにパソコンやタブレット購入のお願いはできない。

 また法人事業概況書の各月の売上高が現金主義の場合にも比較計算で困ってしまうことになる。かなりの件数で売上比較の相談を受けた。

雇用調整助成金は当初申請方法が複雑で申請がうまくいかなかったと聞くが、大手の社労士事務所が協力して申請方法を簡易な方法にするようにしたという記事を見たが、今回の助成金や補助金に関して政府は税理士会に相談は無かったのだろうか?明らかに今回の時短奨励金や一次支援金・月次支援金の相談を受けたのは税理士事務所であったと思う。今後の支援金などの申請方法については、税理士会から売上比較などの申請に関して積極的に提案を行っていくべきだと思う。

 また雇用調整助成金に関しては、社労士は報酬を得ているが税理士は支援金などの請求のお手伝いは顧問料の範囲内かもしくは少額であろうと思う。報酬はできるだけ取らないという話がでていたがこれも雇用調整助成金との違いはどこから来るのかが分からない。

前置きが長くなったが、日本の中小企業のデジタル化がなぜこれほど遅れているのかは、経営者がデジタル化に疎い(苦手・嫌い)というのが一番の原因で、前月号でも電帳法の話題で触れられていたが、これらをお客様に説明していくのかと思うと気が遠くなる。今回の電帳法に関して事前にQ&Aを読んで質問してこられた会社はたったの1件だった。それはそうだろう。国民にほぼ告知されていないのだから。インボイスの登録申請に関しても税理士からの告知が必要である。結局中小企業のデジタル化の推進には大いに税理士事務所の関わりが必要になってくるのであるが、そのためには中小企業の経営者にもデジタル化に向けての協力を得なければならない。ところが・・・。結局「難しいことは分からない」、「先生やっといて」となってしまう。もちろんお手伝いはしたいのだがそのためには社員の方々の協力も必要になってくるがこれが難儀である。最近2つの事例があったのでご紹介すると従前から手書きの仕訳伝票を作成している卸売業で売掛金残高が毎月合わない。担当者はなぜ合わないのかが分からないそうだ。担当者は「一生懸命調べているのですが、私はもういっぱいいっぱいです。もしこれ以上合わせろというのであれば、会社を辞めるしかない」と社長は言われたそうで、人材不足の折担当者には辞めてほしくないので「先生どうすればいいでしょうか?」という相談である。もう1つは園児が数百人いる会社で登園や退園の時間管理をスマホで管理して毎月の請求書を自動計算できるようにシステムを入れたものの、園児の親がスマホを持っていない、子供のデータを親が入力ミスしてデータが固まる、現場従業員が親の入力ミス修正や質問に答えられないなど3年経ってもシステムがうまく稼働しない。結局社長はデジタルよりアナログの方が良かったと言い出す始末である。

 中小企業のデジタル化による業務の効率化はかなり昔から言われてきているものの、結局あまり進捗している感じがしない。会計ソフトでは、通帳やクレジットカードの自動取込み、領収書のスキャナー取込みなどかなり進化してきている。最近は通帳の写しのPDFからの自動読込みも精度が高くできるようになっている。実はツールはすでにそろっているのである。ではなぜデジタル化が進まないのか?

 1つは税理士事務所のビジネスモデルに乗って来ないということなのではないだろうか。中小企業の経理合理化のセミナーを行っても税理士の参加率は高くない。経理を合理化するとお客様の経理担当者の仕事が減るため協力が得にくい。結局は経理担当者も余分な仕事を作り、税理士事務所は必要な資料だけピックアップして記帳代行を行うという関係が今後も続くであろう。中小企業にデジタル化推進は本当に難しい。