インボイス制度の導入に反対する

 2021年01月25日

(第559号掲載)

・・・公平かつ公正な税制の確立に向けて・・・

 消費税法におけるインボイス制度は、平成28年度税制改正法案において可決し、本来であれば令和3年4月より実施予定であったが、消費税率の引き上げ時期延長の影響により、令和5年10月より実施となっている。

 税理士会は、かねてより軽減税率制度の廃止とともにインボイス制度の問題点を指摘し、仮に軽減税率制度が導入されたとしても現行の区分記載請求書等保存方式により対応できるとしてインボイス制度の導入に反対をしてきた。

(1)事務負担の増加

 本来、税額の確定に当たる計算方法は申告納税制度を採用している以上、簡素であることが望ましいが、インボイス制度は新たに適格請求書の発行や集計が必要となり、課税の精緻を追求するあまり、事業者に過度な負担を生じさせることになる。我が国にとっての喫緊の課題となっている中小企業の事業承継を行うにあたりキーワードとなっている「生産性向上」に向けての取組みと相反する事務負担の増加と言える。

(2)免税事業者との取引

 免税事業者が適格請求書を発行できないことに伴い、取引の中止または不当な値下げ等により経営状態が圧迫されるおそれが指摘されていた。

 本年10月に日本商工会議所が公表した「中小企業における新型コロナウイルス感染拡大・消費税率引上げの影響調査結果(以下、「日商調査結果という。)」によると、課税事業者の約2割が「免税事業者との取引は(一切または一部)行わない」、「経過措置の間は取引を行う」と回答し、免税事業者との取引を見直す意向を示している。また6割強は「まだ分からない」との回答であり、今後、この傾向は強まることが予想される。

(3)免税点制度の形骸化

 「日商調査結果」によると既に2割の事業者が「課税事業者になる予定」と回答しており、一方で約6割の事業者が「まだ分からない」と回答している。

 免税事業者が、課税事業者を選択することにより(2)の解決を図ったとしても以前にない税負担を生じることになり、経営状態の悪化は避けられない。結果として、インボイス制度の導入は消費税における免税制度の形骸化に繋がり、中小事業者の活力を阻害することになる。

(4) 平成 28年度税制改正法附則による検証

 平成28年度税制改正法附則では、「軽減税率制度の導入後3年以内を目処に、適格請求書等保存方式の導入に係る事業者の準備状況及び事業者取引への影響の可能性等を検証し、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるもの」とされている。

 にもかかわらず、来年10月からは「適格請求書発行事業者の登録申請書」の受付が開始される。

「日商調査結果」によると新型コロナウイルスの影響もあり、約7割の事業者がインボイス制度導入に向けて特段の準備を行っていなく、特に「売上高1千万円以下の事業者」では約8割となっており、小規模な事業者ほど、その傾向は顕著となっている。

 附則を尊重するならば、少なくとも来年の10月から始まる登録申請は延期すべきである。未曾有の危機に我が国が直面しているコロナ禍において、現状の検証なく、事業者に重要な経営判断を強いるべきではない。

 以上のとおり、インボイス制度の導入は、課税の精緻と引き換えに、中小事業者にとって大きな悪影響を及ぼすこととなる。税制が必要以上に商取引に介入することになるインボイス制度の導入には断固反対をする。

 今年度は新型コロナウイルスの影響により、各府省庁からの税制改正要望は9月末日締めとなり、通常より一か月間遅れることとなったが、与党税調は例年通り11月中旬にはスタートする見込みとなっている。インボイス制度の見直しを含め、コロナ禍における現状を踏まえた、国民の立場にたった公平かつ公正な議論がなされることを望む。