「日本にも納税者権利憲章の制定を!」
(第603号掲載)
前回の衆院選で自民党が少数与党になり、現在、国会運営においては野党との政策協議が必須という状況になっている。是非とも最大野党である立憲民主党には納税者権利憲章の制定を諦めずに目指して欲しい。
立憲民主党の前身である当時の民主党が与党であった2011年の国会において、納税者権利憲章の創設を含む国税通則法の改正法案を提出し税制改正大綱にも記載されたものの、野党である自民党などの反対にあって、先送りになってしまったということがあった。それから14年経つが、納税者権利憲章の必要性は変わらないどころか、増大していると言わざるを得ない。後を絶たない無予告調査事例は言うに及ばず、実質賃金が上がらず、物価上昇ばかりが目立ち、国民の重税感が増している。このような中で納税者の理解を得ながら税務行政を執行するためには、納税者の権利の確立が不可欠であろう。
そもそも、日本を含めた先進諸国は、納税者が納める税を収入源とする租税国家であり、国の運営には納税者の協力が欠かせない。国を会社に例えると納税者は大事な得意先であり、その信頼を得なくては経費が賄えず、必要な事業に投資することができなくなる。他の先進諸国においては納税者権利憲章を制定し、納税者の権利を保障し、税務行政の信頼を得て税収の確保を成し遂げているのである。1975年のフランスに始まり、2000年にはイタリアでも制定されほとんどの先進国では既に運用されている。日本よりかなり遅れて1961年に税理士制度が始まった韓国においても1997年に制定されている。また、OECD(経済協力開発機構)からも1990年に勧告が出ているが、夫婦別姓導入と同様に必要ないとしてスルーしている状況である。
必要ないとする理由として、一つは、違法又は不当な課税処分等に対する行政上及び司法上の救済制度が整備されているとしているが、重要なのは、納税者権利憲章によって、税務手続きの適正性を確保することにより、事後的にではなく事前に納税者の権利利益を救済できるようにすることである。また、日本では納税者側ではなく課税庁側に立証責任があるから不要とする向きもあるが、立証責任をどちらが負うかの問題と、手続きの透明性や適正化は必ずしもリンクしないので、それをもって、権利憲章は不要とするのは論理的に無理があるだろう。
税務署という国家権力と一納税者が向き合う際には、納税者権利憲章の後ろ盾が必要であり、納税者権利憲章により対等な関係性を築くことによって税務当局への信頼性が高まり、相互の協力関係が深まっていき、スムーズな税務行政の執行へと繋がっていくものと思う。
また、納税者権利憲章を制定することにより、納税者の意識が変わり、自身の権利と義務に関して学ぶ機会が増え、従来の義務に偏ったものではなく、本当の意味での租税教育が実現するのではないかと思う。
納税者権利憲章の制定とともに、国税通則法や税理士法の第一条に「納税者の権利を擁護する」という文言を追加する改正も必要である。通則法は税務行政の公正な運営を図るためであり、税理士法は、納税者の代理人としての税理士の立ち位置を明確なものするものである。
納税者目線でのわかりやすい納税者の権利と義務を明文化した納税者権利憲章を制定し、主権者である国民の意識の変革を促し、信頼関係の構築と相互に協力しあう体制をつくらなければ、これからのデジタル化社会では、行政側が納税者のプライバシーや個人情報を利用する際に納税者の協力は到底得られるものではないであろう。