「育てる」 ~人も経済も

 2022年02月25日

(第568号掲載)

 新型コロナウイルスの感染拡大も収束が見えてきた。日本のワクチン2回接種率は68%を超え、現在は感染者数、死亡者数ともに低く抑えられている。しかし、目を世界に転じると、ワクチン2回接種率は36%程度でまだまだ予断を許さない状況である。ワクチン先進国の経済正常化にあわせて、サプライチェーンの混乱、原油高、人手不足、インフレ、テーパリング、急激な為替変動など、対処すべき課題は盛りだくさんだ。

 そんな中、日本では首相が交代した。「成長と分配の好循環」を掲げ、金融所得課税を20%から30%に増税するという。因果関係は定かではないものの、その後株価は急落、投資家を中心とした世論の批判を受けて、1週間後には撤回した。選挙前に手痛い失敗だったと言わざるを得ない。

「成長と分配の好循環」には大賛成だが、問題は「成長」していないことだ。経済が成長していれば、分配は自然と達成される部分も多い。アベノミクスでトリクルダウンが起きなかったという意見もあるが、そもそも内需が拡大していないのだから、トリクルダウンも起きようがない。マルチナショナルな企業において、各国で稼いだ利益は現地での雇用や税金として現地に還元し、現地経済に貢献するのが今の倫理観だ。つまり、内需が拡大しない限り、日本の一般層に金は回らないのである。

 給与が上がらないのに老後は2000万円必要だと脅され、不安を抱えたまま迎えたコロナ禍、追い詰められるように一般層が目を付けたのが投資だ。投資であれば、日本企業の海外での成長も配当やキャピタルゲインとして享受できる。日本企業がダメなら外国企業に資金を託せばいい。超低金利の環境で、やっと貯蓄が投資に回り始めたのである。なにも急いで潰すことはない。

 人も経済も「育てる」ことなく成長することはない。日々の生活の中で、あらゆる才能が発掘され、人的、資金的援助を受けて成長し、その果実が内需であれば給与や金融所得、外需であれば金融所得を中心として一般層に分配される、そういう流れが理想的ではないか。選挙の結果がどうであれ、政権与党には長期の視点で「育てる」ことから始めて頂きたい。