税理士法改正について

 2022年02月21日

(第571号掲載)

 昨年12月10日に与党税制改正大綱が公表され、納税環境整備の一項目として「税理士制度の見直し」が掲げられた。同12月24日の閣議で決定された令和4年度税制改正の大綱においても、全く同じ内容の見直しが明記された。

 これらに先立って同6月23日の日税連理事会において、税理士法に関する改正要望書が議決された。要望書の内容は、Ⅰ ICT化とウィズコロナ時代への対応、Ⅱ 多様な人材の確保、Ⅲ 税理士に対する信頼の向上を図るための環境整備、Ⅳ その他となっており、

ⅠのICT化とウィズコロナ時代への対応には、税理士の業務のICT化推進の明確化、税務代理における利便の向上、税理士会等の通知等の電子化、電子記録媒体の見直し、事務所規定の見直しの5項目が掲げられている。

 上記の項目中税理士の業務のICT化推進の明確化では「経済のデジタル化、グローバル化の進展等の環境変化に伴う税理士制度の継続的発展を期するため、電子申告・納税、電子帳簿、マイナポータルの利活用など税理士の業務のICT化の推進を通じて、納税義務者の利便性向上に努めることを明確化すべきである。」と記されている。(ここで言う税理士の業務は、税理士法第2条の税理士の業務と同義ではないことに注意する。筆者注)

 これを受けて与党税制改正大綱では、税理士の業務の電子化等の推進の項で、「税理士及び税理士法人は、税理士の業務の電子化等を通じて、納税義務者の利便の向上及び税理士の業務の改善進歩を図るよう努めるものとする旨の規定を設けることとする。」と述べ、当該規定に関する事項を各税理士会及び日税連の会則記載事項とするとともに、当該会則を変更するときは、財務大臣の認可を要するとしている。

 そもそも今回の税理士法改正は平成31年4月に日税連制度部から提出された、「次期税理士法改正に関する答申」をきっかけとして具体化したものと考えられる。同答申は、経済社会の更なるICT化が進展し、税務行政もスマート化を目指す中、税理士制度のICT化対応が喫緊の課題であるとの認識のもと、論点を整理し制度部意見として取りまとめたものである。その中で、ICT化への税理士法の対応として、以下の3項目を改正要望項目として挙げている。

 1 税理士法第33条において、電子的に行う税理士の署名押印について明示すること。

 2 税理士が電子申告の代理送信を行う場合には、税理士資格を有することの証明を義務付けること。

 3 納税者との委嘱関係及びマイナポータル上の代理について、常に明確にできるようにすること。

 その後日税連は相当の期間を設けて、各税理士会及び税理士個人にむけて同答申に関する意見募集を実施し、翌令和2年3月、税理士界1386号で意見募集の結果を公表した。同年8月には国税庁に税理士法改正に向けて意見交換を継続して行いたい旨要望し、税理士法改正の議論を深めるとともに、各方面に働きかけ、同年12月に公表された令和3年度与党税制改正大綱に、税理士制度について税理士法改正を視野に、その見直しの検討を進めると記載された。

 その後令和3年6月に税理士法に関する改正要望書が理事会決定された訳だが、日税連制度部答申の3つの改正要望項目が、改正要望書記載の「税理士の業務のICT化の推進を通じて、納税義務者の利便性向上に努める」という、努力義務規定のような内容に変化していった経緯は詳らかではない。

 時代の求めに応じて業務のデジタル化に努め、納税者の依頼に応えることは当然のことと考えるが、仄聞するところのように税理士法の第2条の3として、この努力義務規定が新設されるとなると、税理士法第1条(税理士の使命)、第2条(税理士の業務)といった税理士制度の根幹に係わる部分に何か影響を及ぼすことはないかと危惧される。どうしても税理士法に書くのなら、研修受講の努力義務規定のように、第4章税理士の権利及び義務に設けるのが妥当ではないか。