『論』 Newest article
税理士法改正について
(第615号掲載)
税理士法改正に関する事項は、最近では毎年の税制改正の項目のうち、納税環境整備の事項として取り扱われている。今年度も多くある改正要望のうち実現可能性の高い6項目について、日税連と国税庁・主税局との間で協議が行われているようだ。
無論実現の可能性が低い、いや、ほぼ無いと思われる項目が俎上に上がらないことは理解できるが、要望項目としての意義が失われたわけではない。その中でも重要度の高い項目の一つとして、税理士法第1条「税理士の使命」における、納税者の権利擁護の明確化を求めるものがある。
税理士法第1条は昭和26年税理士法が制定されたとき、「税理士の職責」として設けられた。その後昭和55年の法改正により、従前の中正な立場を、独立した公正な立場と改め、税務の専門家、申告納税制度の理念などの新たな文言を加えて文章を整え、標題を税理士の使命とされたものである。
昭和55年当時の国会審議の中で、自民党議員から「税理士の使命」に関して、「納税者の権利を擁護し、」という一言が大事ではないかとの質問があった。これに対して政府側からの答弁は、「納税者の権利を擁護するということは、適正な納税義務の実現の中に含まれると信じており、今後もそういう方向で税理士制度が発展していくことを期待している。」というものであった。
東京税理士会では平成5年5月に「税理士法改正要綱」を取りまとめ公表した。その冒頭、「21世紀への税理士制度の構想―税理士法改正要綱」作成に当たって、人権の尊重の重要な内容の一つとして、納税者の権利が挙げられると述べて、申告納税制度は国民主権の政治原理に立って、主権者たる納税者に自ら租税債務を確定する権能を認めたものであり、納税者の人権の尊重を謡っているものであるとしている。
そして納税者の権利とは、法律に従って(租税法律主義)、公平な課税(租税公平主義)を受ける権利、税務調査において高圧的・糾問的な調査を受けない権利などが考えられる。しかしそれだけではなく、①租税法律主義に基づき、法律の定めを超えて租税を賦課徴収されることがなく、②個別税法に規定されている個別具体的な権利を当然に保証され、③憲法で保障されている国民の諸権利が租税法の領域においても実現されていく、という広範な概念として捉えるべきであると述べている。
このように納税者の権利を定義した場合、税理士としての納税者の権利擁護機能は次のようなものと解することができる。
- 租税実体法の領域で租税正義の実現を期すとともに、課税庁の恣意的な税法の解釈適用により納税者の権利利益が不当に侵害されないよう納税者を擁護する。
- 主として租税手続法の領域において、事前の権利行使(税務調査の事前通知、理由開示、各種の特例等の適用についての申請・届出等)や、事後的な権利救済(更正の請求、不服申し立て等)の手続きにおいて、納税者の代理を務める。
- 税務行政の執行面における行き過ぎによって納税者の基本的人権が侵されることがないよう適切な援助を行う。併せて税理士団体として税制、税務行政の改善進歩のため建議、要望等を行う。
このように「納税義務の適正な実現を図る」とは、「納税者の権利を擁護する」ことに他ならないことになるのだが、現行の「使命」規定は、国民主権、基本的人権の保障を基本理念とする憲法の精神に照らして、未だ曖昧であるという問題が残されたままである。
国会における税制改正論議のなかで、衆参両院の付帯決議として、納税者権利憲章の策定を含めた納税環境整備の実現に努めるとされた今日、税理士の使命の明確化を強く求めていくべきではないだろうか。
『展望』 Newest article
専税協議会第57回定期総会

(第586号掲載)
令和5年7月22日(土)午後1時30分より、アルカディア市ヶ谷(私学会館)4階「飛鳥」において、専税協議会第57回定期総会を開催した。
第一部 定期総会、第二部 記念講演、第三部 懇親会を開催し、盛況裡に終了した。
第一部
定期総会は午後1時30分より、青木久直副会長が司会を担当する旨を述べ、全体の流れについて説明をした後、開会の宣言を行った。続いて菅原祥元会長から会員への謝辞とともに、インボイス制度反対についての取り組み等この一年間の活動の報告、12月の東京税理士会役員選挙において、勝又和彦会員が副会長に当選した旨の挨拶があった。
議事に入る前に平野信吾監事より、本日までに専税協議会事務局に届いた議決権行使書について、83名中36名の書面による議決権行使書が届いているとの報告があった。また、現在会場の出席者は9名であると報告された。議長として麻生昌敬会員(江戸川南)が選出され議事に入った。第1号議案から第4号議案まで賛成多数で承認可決され、第5号議案において菅原祥元(麻布)会長をはじめとする新役員が選任された。(新役員の名簿は本誌●Pに掲載)
第二部
記念講演は、阿部徳幸氏(本郷支部/税理士、日本大学法学部・同大学院法学研究科教授)を講師に迎え、「デジタル化に向けて税理士はどうするべきか?」をテーマにご講演頂いた。
第三部
懇親パーティは、部屋を移して盛大に行われ、なつかしい顔合わせ、新しい面々など互いに懇親を深め、有意義なひと時を過ごした。
『寄稿』 Newest article
「食料品消費税ゼロ」のカラクリ
「ゼロ税率(0%で課税/免税)」か、「非課税」か? 税理士界は、食料品ゼロ税率で事業者と消費者を守る主張を!
石村 耕治(白鷗大学名誉教授)
(第612号掲載)
◆正体不明の「食料品消費税ゼロ」
2026年2月の衆院選では、与党も「食料品消費税ゼロ」を掲げた。選挙後、社会保障国民会議でこのテーマの議論が始まった。しかし、「ゼロ」の中身は明確にされないまま議論が進んでいる。
実は「ゼロ」には二つある。ひとつは「非課税」、もうひとつは「ゼロ税率(0%で課税/免税)」である。財政当局は、後者「ゼロ税率」の議論を避ける傾向がある。消費税導入時に、財政当局が公的保険適用医療や教育サービスなどへのゼロ税率適用の議論を封じた時と同じ構図である。要するに、仕入税額控除を封じ、税収をできるだけ減らしたくないのだろう。
議員だけでなく、税理士界も「食料品消費税ゼロ」を十分に検討できていない。「ゼロ=非課税」という思い込みが強く、議論が深まりにくい。しかし、消費税の免税・ゼロ税率には、①輸出に使われる「輸出免税」と、②国内取引に使える「国内免税」がある。
【表1】 「ゼロ税率」の種類と活用目的
| ゼロ税率 |
| ①輸出免税/輸出ゼロ税率 【輸出取引に適用】 |
| ②(国内)免税/(国内)ゼロ税率 【基礎的飲食品などに適用】 |
| 消費地(仕向け地)課税原則に基づく |
| 逆進性解消策として活用 |
本来、「消費税ゼロ」の意味は、「非課税」と「免税/ゼロ税率」の違いを踏まえて議論すべきである。財政当局の説明だけに引きずられた、島国的で視野の狭い議論では不十分である。
消費者から見ると、非課税でもゼロ税率でも、どちらも消費税がかからない点は同じに見える。しかし、事業者にとっては決定的に違う。ゼロ税率(0%で課税)なら仕入れ時に払った消費税を控除できる。一方、非課税では仕入れ時に払った消費税控除ができない。その分が「損税」となり、事業者の負担として積み上がる。この負担を避けようとすれば価格へ上乗せせざるを得ず、最終的には消費者が負担することにつながる。とりわけ、インボイス制度で事務負担が重く、価格転嫁が難しい零細事業者にとっては深刻である。損税が積み重なれば、事業の継続そのものが危うくなる。これが「消費税ゼロ」の“カラクリ”である。
◆消費税の枠内での逆進対策とは
消費税(付加価値税)の逆進性を解消策するには、次のような選択ができる。
【表2】 消費税の逆進性解消策の選択
| ①消費税の枠内での逆進対策 |
| ②消費税の枠外での逆進対策【現金給付、所得税 の給付(還付)つき税額控除】 の導入など】 |
選択
政府与党は、当面(2年間)①消費税の枠内での対策を講じ、その後、②消費税の枠外での対策を講じるプランを公表している。
ちなみに、①消費税の枠内での逆進対策としては、次の❶・❷・❸の選択がある。つまり、❶軽減税率➡❷非課税のほか、❶軽減税率➡❸ゼロ税率への転換である。
【表3】 ①消費税の枠内での逆進対策
| ❶複数税率(標準税率および食料品などへの軽減税率)の採用 ❷食料品などへの非課税の採用 ❸食料品などへのゼロ税率の採用 |
英国や旧英領諸国では、消費税の逆進性対策として、「国内免税/国内ゼロ税率」を広く採用している。たとえばオーストラリアの消費税(GST)は、標準税率10%のみで、軽減税率は設けていない。その代わり、基礎的飲食料品、公的医療、教育などに幅広く「国内免税/国内ゼロ税率」を適用している。
【表4】 オーストラリアGST法上の逆進性解消策と対象取引一覧
| 標準税率 | 免税取引/ゼロ税率取引 | 非課税取引/仕入課税取引 | 軽減税率 |
| 10% | ・輸出 ・公的保険医療サービス ・基礎的飲食料品(水道水を含む) ・教育 ・国際運輸 ・非営利/公益活動 ・営農者間農地取引 ・その他 | ・金融取引 ・居住用住宅の貸付(ただしホテルのような事業用居住場所の貸付などを除く。) ・居住用中古住宅取引 ・募金活動 ・その他 | なし |
「免税/ゼロ税率」だと、売上に0%で課税だから、外食を含む食料品を扱う事業者に「損税」が発生しない。事業者は、仕入にかかった税額を控除、実質的には「還付」を受けることができる。
【表5】 標準税率取引・非課税取引・免税取引/ゼロ税率取引比較
| 標準税率取引 | 免税取引/ゼロ税率取引 | 非課税取引 |
| 仕入 税率 [10%] 金額(1,000) 税額[100] 売上 税率 [10%] 金額(1,500) 税額[150] | 仕入 税率 [10%] (1,000) [100] 売上 税率 [0%] (1,500) [0] | 仕入 税率[10%課税] (1,000) [100] 売上 税率[非課税] (1,500) [Nil] |
| 消費税申告税額 50 | 消費税還付税額 100 | 仕入税額控除不可 |
わが国では、財政当局が「国内免税/国内ゼロ税率」を事実上封印してきた。そのため、税理士でも、外国でのゼロ税率の使われ方を知らない人も多い。
◆税理士界の出番
社会保障国民会議の実務者会議は、「食料品消費税ゼロ」の正体を曖昧にしたまま、関係団体や専門家へのヒアリングをするとしている。しかし、これでは、食料品業界への影響を正確に検討できるはずがない。仮に食料品への軽減税率を廃し非課税にすれば、零細小売業者にはインボイスの事務負担に加え、損税が次々と発生しかねないためだ。しかも、2年の経過期間が終われば、食料品も含めてすべて10%の標準税率に戻る可能性が高い。これでは、どうして減税財源試算が必要なのかもわからない。
「消費税ゼロ」の“カラクリ”を糺さないといけない。いまこそ、税理士界の出番である。食料品免税/ゼロ税率という選択肢を正面から提示し、事業者と消費者を守るため専門力を発揮すべきである。
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