「自助」「共助」「公助」
(第564号掲載)
「自分でできることは、まず、自分でやってみる。そして、家族、地域で互いに助け合う。その上で、政府がセーフティーネットでお守りする。そうした国民から信頼される政府を目指します」。菅首相の就任演説で語られた理念である。「公助」より「自助」や「共助」が先にあるのは政府の責任放棄だ、「共助」が先で補足として「自助」や「公助」があるべきだ、「自助」といっても警察や医療で国のお世話になっているではないか、という意見は置いておいて、素直に受け止めれば読んで字のごとくである。稼げるうちは自分で稼ごう、自力で稼げなくなったら家族の収入や保険、年金でカバーしよう、どうしてもダメなら生活保護がある。
日本国憲法では25条の、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有することになっている。つまりこの国では餓死しないどころか、上記最低限の生存権が保証されているのである。できることなら働かず生活保護(政府)に頼ろうという甘い考えへの戒めか。
事業者はどうか。利益を追求する事業者は資本主義の世界で弱肉強食の中、経済状況の悪化、経営不振などにより市場からの撤退を余儀なくされる。生存権は保証されていない。しかし、新型コロナウイルスによる未知との戦いにより緊急事態宣言が発令され、人々は自粛要請された。経済へのダメージは大きく、様々な業種に影響がでた。国民には一律10万円の「定額給付金」が支給され、事業者には「公助」として、緊急経済対策の「持続化給付金」や飛沫感染防止の観点から対面、密になる業種、とくに飲食店を中心に「協力金」が、また、収入にかかわらず発生する固定費の補填としての「家賃支援金」、人件費には「雇用調整助成金」が手当された。また、感染症による特別融資制度もあり、息をついた事業者も多かったのではないか。
政府の対策としては緊急時における理念と迅速性は良かったが、初めての政策ということもあり様々な綻びも浮かび上がった。「持続化給付金」でいえば不正受給や「協力金」では規模に関係なく一律の支給額や業種が限定されるため同様のダメージを受けた支給対象外業種である取引先等、飲食店の休業によって閉店に追い込まれた青果店やクリーニング店の例など。先の教訓も生かし、飲食店の取引先等に対する「一時支援金」が創設された。今回は、有資格者や認定支援機関等の登録機関による事前確認制度が必要とされたが、登録機関の申請から完了までに時間がかかった。顧問先に対する事前確認について必要な税理士も多かったと思うが、初めてのことで登録完了までの時間が読めない。
東京都の「協力金」のように有資格者の登録番号などで対応できなかったのか?また、確認作業の報酬についても確認後受給者数が30件以上の場合に1件1,000円が国の負担として支給されるが、これを辞退すれば申請希望者から対価を得ることもできる。個人事業主に11,000円(税込み)の高額報酬を求めたということで国会でも取り上げられるほど問題視された(2021.3.26朝日新聞)。事業者が厳しい経営環境にあるのは理解できるが、税理士の感覚からすれば、飛び込みの事業者から得る報酬として11,000円は不適切とまでいえるのか?公定価格であるような、ないような、一方で自由価格を認めておきながらそれを高額請求と問題視するのも疑問である。税理士は高額報酬を請求すると報道され、それでは受けきれないと断れば協力的でないと非難される。「税理士」の信用にかかわる問題である。
コロナ禍においては、個人事業主として開業する者も増えている。これらの人達は課税売上1,000万円以下の小規模事業者であり消費税の免税事業者であることが予想される。令和5年10月から始まる日本型インボイス制度のことは知っているのだろうか?得意先からのインボイス要求への対応、インボイスが発行できないことによるデメリット、また、課税事業者を選択すべきか等混乱も予想される。副業など多様化する個人事業主の増加を踏まえ、政府はインボイスに記入する番号とともに個人事業主番号を付番し、雇用保険、健康保険、年金などを管理し事業者向け補助金の事務に活用する仕組みを検討するようだ(2021.4.6日経新聞)これら個人事業主については、いつ開業して、いつ廃業したのか分かりづらいので登録によって把握できることや、取引において秘匿性が高い情報入りのマイナンバーを使わずにすむことも大きなメリットである。コロナ禍、個人事業主への付番、デジタル化等の中、インボイス制度導入の是非を含め今一度立ち止まって制度設計を考えるべきである。