「論」中小零細事業者は消費増税に耐えられるのか!

「論」中小零細事業者は消費増税に耐えられるのか!

(税界展望 第532号)2018年(平成30年)4月11日

1.税理士会の意見

東京税理士会から会報(東京税理界NO.735)とともに「平成31年度税制及び税務行政の改正に関する意見書」が届きました。重要な改正要望事項として消費税について「消費税の軽減税率に反対する」と「適格性請求書等保存方式の導入に反対する」が記載されていますが、消費増税については触れていません。消費増税については反対することなく、容認しています。これは日本税理士会連合会も同じく昨年6月22日に開催された理事会で決定した平成30年度税制に関する建議書では消費税については税率引上げを容認し、「今後の税制改正についての基本的な考え方」として「消費税は我が国の基幹税であり、これからの我が国の社会保障4経費(年金、医療、介護、子育て)を支えるのは、消費税である。消費税率の引上げによる国内消費の減速懸念の問題については慎重な対策が必要であるが、消費税率は予定どおり引き上げられることが望ましい。」としています。しかし前回の消費税引上げが個人消費に与えた影響や税率引上げによる物価上昇による影響は小さくありません。消費税率を引上げなければ中小零細事業者が負担する軽減税率(複数税率)制度の導入は必要ありません。

2.経済財政諮問会議の課題

先の総選挙において連立与党の圧勝を受けて、消費増税は民意を得たと言うことができるというかもしれません。しかし改めて消費増税についてはたして中小零細事業者は負担に耐えられるのでしょうか。平成30年2月20日の経済財政諮問会議の今年前半の主な課題・取組について、「来年10月の消費税率引上げの影響に対する予算を含めた万全の対応」を挙げています。首相は「平成26年の消費税率引き上げ時の経験に鑑み、欧州の事例にも学びつつ消費税率引き上げによる駆け込み需要と反動減といった経済の振れをコントロール、需要変動を平等化する具体策を政府一丸となって検討する必要がある。」と述べています。消費税率引き上げに伴う経済の落ち込みはどの程度になり、また政策的にどう対応するか課題となって、消費増税についての議論は、消費税率の引き上げの前に価格を引き上げるべきという意見が出ています。しかし税理士、税理士法人の主な顧客である中小零細事業者は自社の都合で価格を引き上げることができる商品、製品やサービスを通常は持ち合わせていません。

3.消費税の導入の歴史

消費税の歴史を再確認してみると、日本では消費税は社会保障の捻出や財政再建のためなどと言われていますが、消費税(付加価値税)はフランス政府が1954年に国内の輸出企業にリベート(還付金)を渡すために編み出した税制で、GATT(関税貿易一般協定・貿易WTOの前身)の例外規定として認めさせてきた歴史を持ちます。先月(第531号税界展望「論」の通り、先進諸国で消費税を採用していないのは米国だけで、米国には小売売上税はありますが、これは州税で、消費税とは全く異なる税制です。消費税には輸出企業へのリベート機能はありますが、小売売上税にはありません。日本の消費税が輸出企業へのリベートであることは導入以降の歴史が証明しています。消費増税は消費を後退させ中小零細事業者の負担は重たくなります。

4.消費増税は凍結に

経済財政諮問会議では「前回の消費税引上げが個人消費に与えた影響は、税率引上げによる物価上昇を通じた影響は2兆円台半ば程度、駆込み需要の反動による下押しは3兆円程度(平成27年度経済財政白書)。また、デフレマインドが残る中での名目賃金の伸び 悩みも消費を下押しした。物価上昇に伴う実質所得減の影響、税率引上げ前後に生じる駆込み需要とその反動に留意する必要がある」としています。

一説では会社が設立されてから10年後の生存率が6.3%といわれています。消費の停滞を脱し切れずにいるあいだは消費税率10%への引上げを凍結し、税率をもとの5%に戻すぐらいの英断が国民の消費を増やし中小零細事業者に元気を与え、経済は活性化するのではないでしょうか。

(研修)「民事信託入門(自社株承継編)と緩和される事業承継税制」

/平成30年4月4日(水):於東京税理士会館

第1部「民事信託入門(自社株承継編)」玉川支部 菊地和仁
第2部「大幅に緩和された事業承継税制」について 本所支部 宮本雄司

 

第1部「民事信託入門(自社株承継編)」研修会講師を務めて 玉川支部 菊地和仁

今、ある種ブームとなりつつある民事信託について講師を務めさせていただいた。事前に昨年7月、徳田会長の事務所にて芥川副会長を講師として、第1回民事信託研究会を行いその後、9月に同じく徳田会長の事務所において、私が講師を務めさせていただき、第2回の民事信託研究会を行った。研究成果、参加者との意見交換を踏まえて、民事信託の中で特に自社株承継に絞って会員向けに研修会を行ってはどうか?ということになり、研修会を開くこととなった。民事信託は新しい分野であり、信託の複層化など税務的に評価の定まっていない分野については紹介するにとどめ、民事信託の基本を理解していただき、自社株承継の利用事例を中心とした研修会をすることとした。

実際の研修会で話をさせていただいことの中で、信託のごく基本的なことについて記載をしておきたい。

〇信託の基本

登場人物などと言う言い方をされるが、信託の話をする場合、委託者、受託者、受益者という三者が最低限登場人物として出てくる。

第1登場人物『委託者』 委託者とは財産を持っている人・預ける人。少し難しい言い方をすれば、財産を受託者に移転し、信託目的に従い受益者のために受託者にその財産の管理・処分などをさせる者ということになる。

第2登場人物『受託者』 受託者とは財産を管理する人・預かる人。少し難しい言い方をすると、委託者から信託財産の移転を受け、信託目的に従って受益者のために信託財産の管理・処分などをする者ということになる。

第3登場人物『受益者』 受益者とは利益を享受する人、預けられた財産から利益を得る人。少し難しい言い方をすると、受託者から信託行為に基づいて信託利益の給付を受ける権利と、このような権利を確保するため、受託者に対して信託違反行為の差止請求をする権利などを有する者をいうことになる。

最低限の登場人物が揃ったところで、そもそも信託とはどのように制度か?信託とは、委託者信託行為(例えば、信託契約、遺言)によってその信頼できる人(受託者)に対して、株式や土地などの財産を移転し、受託者は委託者が設定した信託目的に従って受益者のためにその財産(信託財産)の管理・処分などをする制度、と意義付けることができる。

〇信託の課税関係

信託における課税関係についても触れておきたい。『受益者課税を原則とする。』まずこの言葉を覚えておいていただきたい。信託をすると信託された財産の所有権は、委託者から受託者へ移転する。信託財産の所有権は受託者が有することになるが、課税上は、原則として受益者が信託財産を有するものと考える。つまり受益者課税となる。例外として、受益証券を発行する信託 受益者がいない、いなくなってしまった信託は法人課税信託となり、受託者を法人とみなし信託財産から生じる所得を申告する必要が生じる。注意が必要である。信託が終了する場合の課税関係は、財産が実質的に移転しているかどうかで考える。

〇信託財産の評価

信託財産の評価についても触れておきたい、元本と収益との受益者が同一人である場合は、相続税財産基本通達の定めるところにより評価した課税時期における信託財産の価額によって評価する。元本の受益者と収益の受益者とが異なる場合、これを信託財産の複層化と言う。信託を少し勉強すると必ずぶち当たる問題がある。それは複層化した信託をいかに評価すべきかという問題である・・・。

複層化信託の評価についての文言はごく簡単である、

・収益受益権(信託財産の管理及び運用によって生ずる利益を受ける権利)の評価・・・将来収益受益権者が受け取る各年の利益の額を現在価値に割り戻した金額の合計額。

・元本受益権(信託財産自体を受ける権利)の評価・・・『信託財産の評価額-収益受益権の評価額』となる。

将来収益を見積もるのが厄介であるがゆえにこの複層化した信託の評価の難しさがある。

〇信託の利用

さて、信託の利用方法についても触れておきたい。実際の研修会では信託組成の事例紹介に大きな時間を割き、具体的な文章事例に表をプラスしてまとめ話をさていただいた。以下に、信託の利用例ついて記載する。信託の多様性について、そんなことが考えられるんだ、と雰囲気が伝われば幸いである。

・信託を利用すると、遺言の欠点を補うことができる。

・信託を利用すると、子・孫の代以降30年先まで受益者等を指定することができる。

・信託を利用すると、会社の経営権を確保した上で株式を贈与することができる。

・信託を利用すると、成年後見制度と類似の効果を生むことができる。

・信託を利用すると、後戻りできるM&Aに利用することできる。など、など

信託には様々な利用方法が考えられ、『信託は想像である!』と言う専門家もいる。今後も研究を続けて機会があればまた報告をしたいと思っている。

 

第2部「大幅に緩和された事業承継税制」について 本所支部 宮本雄司

 

平成30年4月4日(水)、東京税理士会館に於いて参加者多数の中、盛大に開催された研修会の一部を抜粋し、「大幅に緩和された事業承継税制」について以下記述する。

平成30年度税制改正の中でも目玉とされている事業承継税制について

1.ここ数年における改正点の確認

2.今回の平成30年度改正の主な内容

3.新制度を使う場合の手続的な注意点

4.クライアントへいかに提案を行うべきか

5.補助金制度について

といった内容の研修会であった(講師:宮本雄司)。当日は多くの税理士会員が集まり、会場は熱気を帯びていた。

1.事業承継税制・主な改正の経緯

 

平成21年度改正で創設された事業承継税制は、その後平成25年度改正(親族外承継の適用可、雇用8割維持要件の緩和などがあり、施行時期は平成27年)、平成27年度改正(贈与税の納税猶予・免除制度の拡充)、直近では平成29年度改正(相続時精算課税制度との併用解禁など)として幾度となく見直しが行われてきた。

こうした改正が重ねられてきた背景として、ここ20年の間に中小企業の経営者の高齢化が進み、しかも後継者が未定とされている企業が多いとされる。このままでは中小企業の廃業が増加してしまい、日本経済を底辺で支える中小企業の技術やノウハウが途絶えてしまう危険性がある。

それに対する対応がまさに緊急を要しており、そのための対策が平成30年度の事業承継税制の改正の大きな特徴である。

2.平成30年度事業承継税制・改正の内容

(1)対象株式について

相続税・贈与税ともに、事業承継税制の対象となる株式は、その法人の発行済株式総数の3分の2が限度であったが、今回の改正でその発行済株式総数の全株数が対象となった。

(2)納税猶予の対象となる評価額

相続税においては、納税猶予の適用対象となるのは、その評価額(課税価格)の80%相当の金額に対応する相続税額だったが、今回の改正で課税価格の100%、つまり評価額の全部について、その対応する相続税が納税猶予の対象となった。)(措法70条の7の6参照)

(3)承継パターンの拡充

これまでは、相続又は贈与による事業承継は、1人の先代経営者から1人の後継者への承継というパターンのみであったが、今回の改正により親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継について、納税猶予・免除制度の適用が可能となった。(「措法70条の7の5参照」

(4)雇用確保要件の実質撤廃

贈与又は相続が発生してから5年間(事業承継期間)で平均の従業員数が80%を下回った場合は、納税猶予が取消となり、猶予されていた税金を納付しなければならないとされていたが、今回の改正でこの要件が実質的に撤廃された。

(5)経営環境の変化に応じた減免制度

事業承継後に、廃業を余儀なくされた場合や事業を売却することとなった場合において、その廃業時又は売却時の株価を基に納税額を再計算し、事業承継時に計算された納税額との差額が減免されることとなった。

(6)相続時精算課税制度の適用範囲の拡大

従来、相続時精算課税制度は、60歳以上の父母や祖父母から、その推定相続人や孫への贈与が想定されていたが、今回の改正により、受贈者側の対象者を推定相続人や孫以外の第三者にも広げることとなった。(措法70条の2の7参照)

また、これらの改正は、平成30年1月1日から平成39年12月31日までの間の贈与等により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用する。

 

3.手続的な注意点について

今回の特例制度の適用を受けるためには、平成30年4月1日から平成35年3月31日までの間に、都道府県に対し、「特例承継計画」を提出することが出発点となる。なお、この「特例承継計画」は認定経営革新等支援機関の指導・助言のあるものでないと提出ができない。

実際の株式の贈与があった場合、その贈与日の翌年1月15日までに都道府県に対して認定申請を行い、同年3月15日を提出期限とする贈与税の期限内申告書には、その申請後に都道府県から交付される認定書類を添付する必要がある。

その贈与税の期限内申告書の提出期限の翌日から5年間は「経営承継期間」と呼ばれ、この5年間は毎年一定の時期に、都道府県と税務署に対して、事業継続等についての報告が義務付けられる。

相続税についても同様の手続きを必要とする。

 

4.クライアントへいかに提案すべきか

まず、この特例制度に適している会社を見極める必要がある。具体的には、意欲と責任のある後継者が確定している会社、黒字基調で財政状態がよい会社、今後業績が右肩上がりとなり株価上昇が予想される会社等が適していると考えられる。そしてこうした会社には、まず提出期限が定められている「特例承継計画」の早めの提出が必要であることをアドバイスする必要がある。

また、株式を引き継ぐ後継者には、事前に役員登記されている必要があるなどの要件があるため、注意が必要である。

そして、この特例制度を適用するにあたっては、生前贈与からスタートするべきだと考える。理由としては、贈与税の納税猶予に相続時精算課税制度の併用が認められたこと、特例制度の適用を受けて、「経営承継期間」に入った後に取消事由によって納税を余儀なくされた場合に、納税額を相続時精算課税制度との併用とすることで、納税額を少なく抑えられる効果があるということが挙げられる。

生前贈与、つまり先代経営者が存命中に対策を講じておくことが、後に税負担が発生した場合を考慮すると望ましい。いずれにしても、今回の平成30年度改正は大変大きな改正であり、中小企業にとって将来の納税不安を大幅に軽減するものとして、是非活用して頂きたいと考える。

またクライアントへの提案をする上では、遺留分という問題にも留意しなければならない。承継者が、承継者ではない他の相続人から遺留分の財産返還を求められた場合、自社株が分散し、不安定な状態となりかねない。そのための事前策についても考えておかなければならない。例えば、こうしたリスクを回避するため、遺留分に係る民法の特例についても検討する必要がある(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律第三条~第十条)。

 

5.補助金制度について

平成29年度に創設された事業承継補助金については、今年度は2億円から30億円に増額された。補助金の公募に関する情報が近日中に公開される予定である。是非その内容を確認して頂きたい。

<参考ホームページ>

平成30年度税制改正(中小企業・小規模事業者関係)の概要

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/2017/171225zeiritu.pdf

(研修)「平成30年度の税制改正大綱」について検討する

/平成30年1月20日(土)於:アルカディア市ヶ谷(私学会館)

パネラー:宮本雄司(本所支部)、坂田覚(板橋支部)、菅原祥元(麻布支部)

平成30年1月20日にて、アルカディア市ヶ谷にて専税協議会が行った「平成30年度の税制改正大綱」の研修について、今後の税理士業務に関係あるところを中心に税制改正大綱の中身を検討いたしました。

具体的には、働き方改革と所得再分配、事業承継税制の緩和措置、電子申告の推進と普及、小規模宅地等の特例、所得拡大促進税制といったこと中心に検討いたしました。

 

1.サラリーマン課税等(所得税)の変更がどのようなものなのか?

先般、報道等によって税金を取りやすいところからとるという指摘があったが、その背景は次のようなものである。

キーワードは所得再分配、働き方の多様化(給料、フリーランス、在宅など)。働き方によって、事業、給与、雑と異なっているが、その所得種類によって税額を解離させない、近づけるという理念がある。

以下、改正の概要としては、大きく分けて4つのポイントがある。

  1. 給与所得控除・公的年金等控除から基礎控除へのシフト。
  2. 高所得者について給与所得駆除を引き下げ。
  3. 年金以外に特に高額の副収入がある者について公的年金等控除を引き下げ。
  4. 特に高額の所得がある者について基礎控除を逓減・消失。

☆働き方の多様化

給与所得控除が過大なのではないか?(財務省主張)という点が挙げられるが、今回は、給与所得控除のうち10万円を基礎控除に振り分けることで、事業や雑に所得計算上の恩恵を与えている。

また、給与所得控除から基礎控除へ10万円を振り分けるので、給与所得者にも基礎控除での10万円分の控除を受けられるので、いってこいになる。

☆所得再分配の見直し

日本では少子高齢化に伴い、以前の終身雇用から年金生活者というスライドになるということが少なくなり、働きながら年金も受給する生活になってきている。給与+年金という収入以外にも、不動産収入+年金といった年金とプラスアルファの収入があるので、その部分の再分配機能を高めようと考えている。

したがって、公的年金控除から基礎控除への振り分けが行われた。加えて、現状の所得税の計算方式では、高額所得者ほど、所得控除の恩恵があるので、特に高額の所得がある者については、基礎控除を逓減・消失させる。

改正では基礎控除は現状の38万円から48万円に課税の最低が引き下げられるのに対して、高所得者には、所得控除の恩恵をさせない改正となっている。

☆給与所得者について

具体的には、控除額が頭打ちとなる給与収入を850万円超に引き下げるが、子育世帯(22歳以下の扶養親族が同一生計内にいる者)、介護世帯(特別障害者控除の対象者が同一生計内にいる者)には負担が生じないように手当を行う。

☆年金受給者について

①公的年金等収入が1,000万円を超える場合の控除額に上限を設ける。

②年金以外に特に高額の副収入(1,000万円超:0.5%)がある年金受給者の控除額を引き下げる。

☆給料と年金の両方の収入がある方や子育世帯、介護世帯について

給与所得控除と公的年金等控除のそれぞれから10万円ずつ控除されるので、合計20万円の控除減になるものの、基礎控除は10万円上がることになる。

この場合には、所得金額調整控除にて調整が図られることになる。

☆基礎控除の逓減・消失について

給与所得控除、公的年金等控除から基礎控除へ振替をするだけなので、基本的には増税にはならないが、所得金額調整控除の対象外にならない、子育世帯、介護世帯以外が増税になる。

☆基礎控除が使えなくなる(消失)ライン

合計所得金額2,500万円超からは基礎控除が廃止になる。合計所得金額2,400万円から段階的に基礎控除が逓減していくことになる。

高額所得者は、給与所得控除が下がり、基礎控除も下がるということになる。基礎控除の消失については、憲法25条の生存権からの理念、所得再分配機能と応能負担原則からの理念がある。後者の理念からすると、違憲にはならない。

☆上記の適用時期

平成32年分以後の所得税及び平成33年度分以後の個人住民税について適用する   こととなる。

☆青色申告特別控除の改正について

控除額を55万円(現行:65万円)に引き下げる。しかし、電子帳簿を作成して備付けと保存を行うか、期限内申告で電子申告をすることで65万円控除になる。電子申告をしない人は、55万円に下がることになる。

 

2.事業承継税制

(1)事業承継税制概要

①入口の要件の抜本緩和

総株式の最大2/3⇒全株式が対象、猶予割合80%⇒猶予割合100%。

承継後5年間平均8割の雇用維持が必要⇒雇用要件は弾力化(一定の場合には、認定支援機関の指導助言)。今までだと、猶予できる割合は80%×2/3=53.33%であった。今回の改正で、猶予できる対象が100%になった。今まで一番厳しかった要件である雇用要件が緩和された。ただ、認定支援機関でないと事業承継税制が使えないことにもなっている。

(2)具体的な改正の内容と例示

①承継後の負担の抜本軽減、経営環境変化に対応した減免制度

会社を譲渡(M&A)・解散した場合には、税額を再計算⇒税負担に対する将来懸念を軽減。

例:贈与相続時の税額4,800万円、解散譲渡時の税額3,700万円、差額の1,100万円を免除する

②5年以内の承継計画の届出

・後継者指名や経営の見通し等。

・金融機関その他の認定支援機関の指導助言。

③10年以内の贈与・相続が対象

その後の猶予期間も含めて特例が適用される。したがって、平成30年から10年間の特例制度。

④承継パターンの拡大

複数人⇒1人、1人⇒最大3人(代表者)も事業承継税制の対象とする。

例:兄弟で会社をやっている場合など、複数での対応が可能となる。

⑤相続時精算課税と事業承継税制

特例後継者が推定相続人以外の者となったことで、他人でも事業承継の道が開け、相続時精算課税の適用を受けることができるようになる。

⑥一般社団法人に関する課税の強化も導入された。

⑦導入開始時期

平成30年1月1日から適用になる。

 

3.小規模宅地等の相続税の課税の特例に関する改正

(1)家なき子特例に課税強化

持ち家がなくても、同族会社の社宅に住んでいる場合等には、家なき子特例から除外されることとなった。形式的な要件を無くして、実質的な所有の有無での判断となる。

(2)貸付事業用宅地等に課税強化

貸付事業用宅地の範囲から、相続開始前3年以内に貸付事業の様に供されている宅地が除外されることになる。

(3)適用開始時期

平成30年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産について適用になる。

 

4.法人税関係に関する改正

(1)所得拡大促進税制

①中小企業に関する改正について

【要件の変更】

平均給与等支給額が前年比1.5%以上の増加(前期との比較のみとなった)

【税額控除】

・給与等支給総額の対前年度増加額の15%の税額控除になった。

・10%の上乗せ措置も追加(次のいずれの要件を満たす場合)

-平均給与等支給額が対前年度2.5%以上増加。

-教育訓練費増加要件を満たす場合。

・上記15%と10%の上乗せを含めると⇒最大で25%の税額譲渡なる。

・ただし、税額控除限度額は法人税額の20%が限度。

※教育訓練費増加額等の要件:次のいずれかの要件

①当期の教育訓練費≧前期の教育訓練費の1.1倍。

②中小企業等経営強化法の認定に係る計画における経営力向上の証明。

 

5.注目されている改正点

(1)情報連携投資等の促進に係る税制の創設

(2)法人税における収益の認識等についての措置について

(3)納税環境整備(大法人の電子申告の義務化へ)

(4)国際観光旅客税の創設

(5)消費税の簡易課税(農業所得の区分が第3種事業から第2種事業に変更)

 

「論」消費税は貿易自由化の妨げになる?

(税界展望 第531号)2018年(平成30年)3月19日

トランプ大統領が、鉄鋼とアルミニュウムの輸入に新たな関税をかけることを決めた。鉄鋼は25%、アルミニュウムは10%の追加関税がかけられる。この一方的な輸入制限の発動について、自由貿易体制を危うくすると他国から批判が相次いでいる。

しかし、米国と日本の税制でこの問題を考えると、日本の消費税の値上げは、米国にとって関税を上げるのと同様に感じられると予想される。

消費税値上げ時には、いま日本が米国に向かって行っている非難は、同じように米国から日本に向かう。当然トランプ大統領は消費税アップに反対する。こう考えると日本の消費税率10%引き上げを阻止できるのはトランプ大統領だけではないか?

10%の消費税アップが止まれば、われわれ皆が反対している税率アップに伴う軽減税率導入、その後のインボイス制度導入も行われなくなる。

私はこの一点のみをトランプ大統領に期待する。

 

1.日本との自動車貿易が不公平?

トランプ米大統領が就任当初、日本との自動車貿易が不公平だと批判し、貿易赤字を解消するために二国間の協議に乗り出すことを示唆した。

この言動に対し日本側は、乗用車の輸出関税は、米国の2.5%に対して日本はゼロだ。トランプ氏の時代錯誤の認識に耳を疑う、との見解である。

しかし、トランプ氏の発言は、日本と米国との税体系の違いに言及しているのだとしたら筋が通ってくる。

 

2.アメリカには消費税はない?

付加価値税・消費税は今や世界の約140カ国で採用されている税制度である。ただし、その中に米国は含まれていない。なぜ米国だけが採用を見送り続けているかを考えるポイントとして、付加価値税に組み込まれた輸出企業への還付金の存在がある。

消費税の大原則として、課税をするのは消費をした土地でなくてはいけない、という「仕向地原則」が存在する。そして、輸出企業は価格に転嫁できない(輸出売上にゼロ税率をかけた額、もちろんゼロ)唯一の例外として取り扱われ、仕入れにかかった税金を還付してもらえる。

このように、消費税については国境調整として、輸入品には課税、輸出品には還付金(リベート)は当然の認識になっている。

米国で政治家やメディアが消費税について語るときは誰もが「消費税?ああ、輸出企業へのリベート(還付)がある税金ね」というくらい認知されており、「消費税導入をしたって、結局は関税引き上げの競争になってしまうだけだからナンセンス。」という意見につながっている。(文春新書「アメリカは日本の消費税を許さない」岩本沙弓著 参照)

 

3.5兆円強が巨大輸出企業に還付され続けている

8%現在で還付金が1番多いのはトヨタ自動車で3,231億円、2位の日産自動車には1,190億円、3位のマツダには662億円、4位の本田技研工業には619億円と自動車産業が続く。6位の三菱自動車にも512億円の還付金がある。2014年4月から税率が5%から8%に上がったため、これらの大企業の還付金額は大幅に増加した。国税庁の発表によると2016年4月から2017年3月期における消費税及び地方消費税の還付金額は5兆4,322億円となっている。

輸出大企業は消費税を納税しないばかりか5兆円を超える還付金をもらい続けている。そして還付金の原資はトヨタなどの輸出企業ではなく、下請け先や仕入先が税務署に納付した消費税である。

 

4.消費税率引き上げは非関税障壁引き上げ?

米国は消費税を導入していないので、日本の100万円の車を米国で売るときは、100万円と関税2.5%で102万5千円である。米国の100万円の車を日本で売るときは、関税ゼロといっても消費税がかかり108万である。そのうえ、日本の100万の車を作った輸出企業には8%の還付があるので米国よりもずいぶん原価は安くなる。

日本の消費税が8%から10%に引き上げられれば、日本に入ってくる輸出品の価格は全て2%上昇する。米国からすれば、自国製品が2%値上がりする。その上、日本の輸出企業に対して還付金が2%多く支払われる。

消費税率引き上げは非関税障壁引き上げになり、米国製品は売れなくなる。

 

5.今後予想される展開

トランプ大統領の鉄鋼とアルミニュウムに輸入関税を課すことに際し、各国は世界貿易機関(WTO)に提訴できる。

しかし振り返ってみると、GATTは、輸出企業に対して補助金を出すことを禁じており、その盲点を突くようにできたのが消費税である。それゆえ、米国は消費税を不公平税制として採用していない。消費税がある国はトランプ大統領に意見を言えないのではないか。

加えて言うなら、輸出の低迷を保護主義によって解決しようとするトランプ大統領に、非関税障壁になって例外的に認められている消費税をWTOから取り除くほうが現実的で米国の正義を貫く方法では、と訴えたい。

「論」税理士業務とAI

(税界展望 第530号)2018年(平成30年)2月8日

年末調整の一連の業務が終了する1月末に、今後AIを会計業務でどのように利用していけばいいのかを考えてみたいと思う。住民税の特別徴収を徹底するということで今後は、零細企業も住民税を給与から天引きせざるを得なくなってきた。給与支払人数が2名以下であれば東京はまだ普通徴収を認めるようであるが、他県では給与支払人数が1名であっても特別徴収を徹底するということである。普通徴収では住民税の徴税コストがかさむのだろう。会社に住民税相当の給与の差し押さえ通知が来るという話もよく聞く。市区町村としては、徴収そのもののコストも会社に負ってもらいたいということが本音だろう。

また社会保険に加入していなかった零細企業は年金事務所から加入を促され、多くの零細企業が加入することとなった。加入はもちろん義務であるのだが、社会保険料を自分で計算して給与を支払うことのできない零細企業が続出した。源泉所得税の計算のように毎月の給与の額で社会保険料の控除額も決まると思っている経営者もいて、給与の支払額が間違っているのを訂正するのにも苦労をした。今後はこれに住民税の控除が加わる。所得税は国に対しての一か所の支払いだから間違いようがないが、住民税は複数の支払先となるので、支払いを間違えると預り金勘定が一致しなくなり、後でのチェックが大変になってしまう。更に従業員が退職した場合には、給与所得者異動届出書を作成できない会社も多いだろう。いままで会計事務所は従業員が退職した際に連絡をもらうことは少なかったと思う。今後は会社で異動届出書を提出できるように指導したいのであるが、めんどうくさいので先生のところでやってもらえませんか。という要望がすでに2社ほどでてきた。記帳代行業務から自計化へ移っていったのと同様に、給与計算業務もタイムカードからICカードを利用することによって業務時間の短縮が図られている。会計ソフトのベンダーも給与計算がいかに不効率に行われているかが分かっており、会計事務所が年末調整、給与支払報告書の提出までをスムーズに進められるようソフトウェアの開発が進んでいる。

しかしである。一番の問題は少人数の従業員しかいない零細企業の給与計算が問題なのである。ある程度の規模の企業はすでに給与計算は自前でできている。今後は会計事務所が給与計算のチェックもしていかなければならいため、税理士報酬がそれほど望めない会社ほど手間がかかることになる。

本来零細企業などでAIを利用して業務の効率化を図りたいところなのであるが、実際にはなかなかアナログから脱却できない。例えば銀行取引はネットバンキングを行っていれば自動的に取引を仕訳に取り込むことができるのだが、法人の場合にはネットバンキングの利用料金は月2,000円かかる。これが高いということで零細企業には導入されない。さらに給与計算などもクラウドで行えるソフトが登場しているが、1人会社の場合には月々450円の利用料でも「エクセルで自分でやってみる」ということで利用してくれない経営者もいる。そのエクセル計算も間違っていたりして、年末調整を考えれば結局会計事務所が1月から12月まで給与データを再度入力しなおすことになる。小規模な飲食店はアルバイトの計算だけでも大変である。コクヨの手書きの給与明細が売られているが、源泉・社保・住民税を計算して記入するだけでも手間である。現在での解決策としては料金はかかるがクラウドの給与ソフトにすることが一番であると思う。何とかこちらに移動してもらえるよう提案しているところである。また給与計算だけではない。来年には消費税の軽減税率が始まる予定であるが、また零細企業の記帳業務に滞りが起こるに違いない。本当に導入はやめてもらいたいものである。

AIが会計事務所の仕事を奪うという話は有名であるが、お客様がAIを利用して業務の効率化を進めていくには、会計事務所の最初のサポートが重要である。常にサポートし続ける必要はなく、とにかく使えるようになってもらうことである。零細企業にAIが浸透して会計業務が自動化されれば、会計事務所の職員が大半の時間を費やしている業務はなくなることになる。これと税理士業務がAIでなくなることとは別の問題である。会計事務所の職員の採用は困難を極めているので、AIの力をつかって極限まで業務を効率化することで人材不足を補っていくことになるだろう。

(研修)「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案及び追加試案」研修会報告 ~税制に与える影響について探る~

/平成29年12月16日(土)於:東京税理士会館
第一部 松嶋隆弘氏(日本大学教授・弁護士)
第二部 パネルディスカッション
    宮本雄司(本所支部)、高橋美津子(日本橋支部)


民法(相続関係)等の改正については、随時、意見募集がなされるなか、中間、追加試案が公表されており、今後、税制に及ぼす影響も大きいと思われます。

そこで、いち早く情報をキャッチし、理解を深めるため、平成29年12月16日、東京税理士会館にて「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案及び追加試案」研修会を開催しました。

第一部は、松嶋隆弘氏(日本大学教授・弁護士)に講師をお願いし、最新の改正の動向をご説明して頂き、第二部において、宮本雄司税理士(本所支部)、高橋美津子税理士(日本橋支部)をパネラーに迎え、税制に与える影響について、パネルディスカッションを企画いたしました。

本研修会は、専税協議会会員のみならず、幅広く、友好他団体の会員にもお誘いしたため、結果56名の出席となり有意義な研修会となりました。

以下、研修会の要旨について記載します。

第一部 「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案及び追加試案」の概要


1.はじめに

2.相続法改正の背景と経過

(1)いわゆる非嫡出子違憲事件において最高裁大法廷
(最大決平成25年9月4日民集67巻6号1320頁)

・事実の概要

※Y1、Y2に対する遺贈があるため、具体的相続分を算定すると
・合憲・有効の場合: Y1、Y2につき、具体的相続分なし
・違憲・無効の場合: Y1、Y2につき、具体的相続分あり
・決定要旨

民法900条4号ただし書前段の規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していた。
民法900条4号ただし書前段の規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたとする最高裁判所の判断は,上記当時から同判断時までの間に開始された他の相続につき,同号ただし書前段の規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判,遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない。

(2)平成25年改正(平成25年法律第94号)
違憲とされた部分を削除する改正(民法900条4号但書)

(3)「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」(「中間試案」)

(4)中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案」(「追加試案」)

(5)要綱案のたたき台(3)とその補充

3.配偶者の保護

(1)「中間試案」における配偶者の相続分の見直しの提案

(2)追加試案及び「要綱案のたたき台(3)」

・追加試案の提案(持戻し免除の意思表示の推定)

民法第903条に次の規律を付け加えるものとする。
婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地の全部又は一部を遺贈又は贈与したとき...、民法第903条第3項の意思表示があったものと推定する。

(3)各提案の検討

4.遺産分割における預貯金債権の取扱い

1)従前の判例の立場と「中間試案」における両案併記

・従前からの判例:

相続財産中に可分債権があるときは、その債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、預金債権も、可分債権として、当然に、分割されることになる旨明示(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁、最判昭和53年12月20日民集32巻9号1674頁最判平成16年4月20日集民214号13頁等)。

・「中間試案」

甲案(可分債権は相続の開始により当然に分割されることを前提としつつ、これを遺産分割の対象に含める考え方)

乙案(可分債権を遺産分割の対象に含めることとし、かつ、遺産分割が終了するまでの間、可分債権の行使を禁止する考え方)とを併記し、パブリック・コメントに付することにした。

(2)平成28年大法廷決定の登場と論点の縮小・変移

・最大決平成28年12月19日民集70巻8号2121頁(大法廷スキーム)

預貯金一般の性格等を踏まえつつ以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。
預貯金契約は、消費寄託の性質を有するものであるが、預貯金契約に基づいて金融機関の処理すべき事務には、預貯金の返還だけでなく、振込入金の受入れ、各種料金の自動支払、定期預金の自動継続処理等、委任事務ないし準委任事務の性質を有するものも多く含まれている...。そして、これを前提として、普通預金口座等が賃金や各種年金給付等の受領のために一般的に利用されるほか、公共料金やクレジットカード等の支払のための口座振替が広く利用され、定期預金等についても総合口座取引において当座貸越の担保とされるなど、預貯金は決済手段としての性格を強めてきている。

(3)追加試案及び「要綱案のたたき台(3)」における仮払い制度等の創設・要件明確化

・家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策((1)案)

・家庭裁判所の判断を経ないで、預貯金の払戻しを認める方策((2)案)

(4)検討

5.遺留分制度に関する見直し

(1)「中間試案」における甲案の優越とその後の批判

・物権的効力説(最判昭和35年7月19日民集14巻9号1779頁、最判昭和41年7月14日民集20巻6号1183頁、最判昭和51年8月30日民集30巻7号768頁)
最判昭和51年8月30日民集30巻7号768頁
遺留分権利者の減殺請求により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するものと解するのが相当

・「中間試案」、「追加試案」及び「要綱案のたたき台(3)」

・受遺者又は受贈者が、現物給付を求めた場合の効果等

・裁判所が現物給付の内容を定めるという考え方(甲案)

・現行法と同様の規律で当然に現物給付の内容が決まるという考え方(乙案)

(2)「追加試案」及び「要綱案のたたき台(3)」の概要

・遺留分に関する権利(遺留分権)の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずる ・受遺者又は受贈者は、金銭債務の全部又は一部の支払に代えて、遺贈又は贈与の財産のうちその指定する財産(指定財産)により給付することを請求することができる ・遺留分権利者が一定期間内に指定財産に関する権利を放棄することができる(金銭債務の消滅の効果までは覆らない。)
(3) 検討

第二部パネルディスカッション進行要旨


テーマ:「税制に与える影響について探る」

★「配偶者の短期居住権、長期居住権」について

・相続財産として課税されるのか?
・短期と長期の違いは?
・評価方法はどのような感じになると想定される?
・マンションと一戸建てのケースについて。従来との違いは?
・建て替えがあっときはどうなる?
・中途で、長期居住権を放棄したときの課税関係は?
★「婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地の全部又は一部(長期居住権を含む)を遺贈又は贈与したときは、民法第903条第3項の持戻し免除の意思表示があったものと推定する」について

・贈与税の配偶者控除(2,000万円まで)との関係は?
・住宅資金の贈与の場合はどうなる?
・今後、顧問先に、「贈与税の配偶者控除」を勧める場合に、注意すべきことがあるか?
★「遺留分制度に関する見直し」について

・遺留分減殺請求の際にどのような影響が具体的にでるか?
・上記影響が、中小企業にもたらす影響は?(事業承継など)
・事業承継の際に気をつけるべきポイント及び対策は何か?
・30年度税制改正大綱との関係は?

「論」税理士法第40条「事務所の設置」

(税界展望 第529号)2018年(平成30年)1月19日

税理士法第40条は「税理士及び税理士法人は、税理士業務を行うための事務所を設けなければならない。」とし、同条第3項で「税理士は、税理士事務所を二以上設けてはならない。」と定めている。この場合の「事務所」とは、継続的に税理士業務を執行する場所をいい、該当するか否かは、外部に対する表示の有無、設備の状況、使用人の有無等の客観的事実によって判定する(通達40-1)とされている。

二個所事務所の禁止は、昭和55年改正で定められたものだが、ちなみに改正前の第40条は、第1項で「税理士は、税理士業務を行うための事務所を設けなければならない。」と規定し、第2項では「税理士は、税理士業務を行うための事務所を二以上設けてはならない。但し、特に必要がある場合において、大蔵省令で定める手続きにより国税庁長官の許可を受けたときは、この限りでない。」とされていた。つまり二個所目の事務所は公認されていたのである。

事務所の設置を義務付けるのは、税理士又は税理士法人でない者による税理士業務の提供を排除し、国民誰もが安心して税理士又は税理士法人の門戸を叩くことができるよう、その利便に資するためと解説されている。

また、税理士一人一事務所に限ることの趣旨は、税理士の業務活動の本拠を一個所に限定することが、法律関係を明確にする上で便宜であること、及び個人の監督能力を超えて業務の範囲を拡大することを事務所の面から規制し、これにより税理士以外の者が税理士業務を行うことを防止することにあるとされている。

ここで言う税理士業務は、税理士法第2条第1項に規定する、税務代理、税務書類の作成、税務相談を意味し、税理士の独占業務(第52条)である。
従って税理士業務を行うのは税理士であり、税理士が税理士業務を行うにあたっての執務場所については、税理士法は何ら制限はしていない。自己の税理士事務所は当然のこと、顧客先でも、税務相談会場でも、時に繁忙等のため自宅へ仕事を持ち帰って行うことも差支えはない。

ただし、自宅で執務することが常態化し、自己の事務所へは必要な時だけ出かけるような状況になった場合は事務所の変更登録の手続きを行う必要がある。

一方で、税理士が、税理士業務を行うため使用人その他の従業者(以下職員等という)を使用することがあるが、職員等が行う業務は、税理士業務そのものではなく、その補助業務と考えられている。この場合には使用者たる税理士に、税理士業務の適正な遂行のために、職員等を監督する義務(第41条の2)が生じる。この条文も昭和55年の税理士法改正で新たに設けられたもので、税理士法人にも準用される。

当時の衆院大蔵委員会における審議のなかで、使用人監督義務規定に関して概ね次のような質疑応答があった。

野党議員:

依頼者やあるいは対外的な迷惑をかけた場合には、これは民法の使用者責任で、内部的には、就業規則や雇用契約上の問題として、民法、労働法の範囲内で賄えるはずであります。なぜ41条の2が特に新設されたのかという理由が分からない。今度の改正案では、事務所は一個所ということになるわけですね。雇う人数は制限されていないけれど、場所的には常に税理士先生のいる場所で事務所が営まれることになるわけで、監督し、あるいは責任を負うことに十分なはずでありまして、そういう点でこの監督をしなければならないという規定を置くことによって、この規程に違反した場合には一般的懲戒処分ですから、威嚇的な感じを持つのではないか。

政府委員:

一人の税理士がどこまで目を通せるかという実態論があります。しかも代理関係で税理士が自分の責任でやる立場なんですね。特に税の場合についてはその税理士として十分な監督をして欲しいというのは、依頼者からの要請であろうと思います。また、いろいろな非違事件が起きています。内容としては、にせ税理士が件数として一番多い。なかには使用人が贈賄に係わっておるとか、脱税相談に係わったものもあるわけです。使用人が非違事件を起こさないようにしてほしいというのは、我々の立場でもありますが、納税者からの当然の要請でもあろうと思います。

税理士はこのように事務所の設置及び使用人等に対する監督義務の規定を踏まえて税理士業務を適正に執行することを求められているが、これらの規定が審議されてから40年近い時が経過した現在、ICT、AI等を含めた環境の変化は大きなものがある。働き方改革が叫ばれているなか、勤務時間、勤務場所等の勤務形態もSOHO、在宅勤務等多様な選択肢が考えられるのではないか。
税理士法人には支店の設置が認められている。個人事務所の支所は検討に値しないのか。
モバイル機器により、いつでもどこでも業務を行なえる状況が実現した今、監督義務の具 体的な指針が必要なのではないか。

(研修)税理士制度と納税者の権利擁護 ~税理士制度のグランドデザイン~

/平成29年7月22日(土)於:全理連ビル

1. 税理士法と納税者権利擁護の関係


1)税理士の使命

第一条  税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。

(2)税理士の業務

(税務代理)
第二条  税理士は、他人の求めに応じ、・・・・・次に掲げる事務を行うことを業とする。
一  税務代理(国税不服審判所を含む。)に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立てにつき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行することをいう。
以下略
(出廷陳述権)
第二条の二  税理士は、租税に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述をすることができる。
2  前項の陳述は、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。ただし、当事者又は訴訟代理人が同項の陳述を直ちに取り消し、又は更正したときは、この限りでない。

3)調査の通知

(調査の通知)
第三十四条  税務官公署の当該職員は、租税の課税標準等を記載した申告書を提出した者について、当該申告書に係る租税に関しあらかじめその者に日時場所を通知してその帳簿書類を調査する場合において、当該租税に関し第三十条の規定による書面を提出している税理士があるときは、併せて当該税理士に対しその調査の日時場所を通知しなければならない。
2  前項の場合において、同項に規定する申告書を提出した者の同意がある場合として財務省令で定める場合に該当するときは、当該申告書を提出した者への通知は、同項に規定する税理士に対してすれば足りる。

(4)税理士業務の制限

第五十二条  税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。

2. ドイツ・韓国の税理士制度と納税者権利擁護


(1)ドイツの税理士

①税理士の使命
ドイツ税理士法では、日本の税理士法のような「使命」規定はないが、税理士法の権利と義務の規定の中で次のように規定されている。
第3章 権利と義務 (一般的な職業上の義務)
第57条 税理士及び税務代理士は、独立して、自己の責任において、誠実に、職業上の秘密を守り、かつ、職業に反する広告をすることなく自己の職業を行わなければならない。
②税理士の業務
ドイツの税理士法では、税理士の業務について、税理士法第1条で以下のように定めている。
第1条 適用範囲 本法は、下記の内容の援助を規定する。
一 連邦税務局・州税務局の管轄で、連邦・欧州経済領域法の法律に規定される租税や補償に関する事務
二 不動産取得税、物税に関する事務
三 州法に規定される税務に関する事務
四 専売に関する事務
五 連邦財務官庁又は州財務官庁の管轄するその他の事務のうち、連邦法財務法下のその他の事務のうち、連邦法や州税務局が管理する事務等
2.税理士の行う税務援助は、次のものを含む。
一 租税刑事事件及び税務違反による制裁金の場合の援助
二 会計,記帳、課税の面での申告書の作成に関する援助
三 還付請求や補償請求権に関する援助
3.代理人及び補佐人の許可に関する個別の手続規定は、その適用を妨げられない。
また、税理士の活動内容は、ドイツ税理士法第33条に以下のように規定されている。
「税理士及び税務代理士は、依頼者の委任の範囲内において、依頼人に税務についての助言をし、その者を代理する任務、税務事項の処理及びその者の税務に関する義務の履行にあたりその者に援助を為す任務を有する。租税刑事事件及び租税秩序違反を理由とする過料の際の援助、ならびに租税法に基づく記帳義務履行の際の援助、とりわけ税務貸借対照表の作成及びその祖税法上の判断も又、その任務とする。」
さらに、第3章の権利と義務では、訴訟代理引き受けの義務が規定されているのが注目される。
第65条 税理士は、財政裁判所法第142条に規定するところにより暫定的に無償で権利を擁護するために当事者の代理を命じられた場合には、財政裁判所の手続にもとづいて当事者の代理を引き受けなければならない。税理士は、この代理命令を取り消す重大な事由があると認めるときは、代理命令の取消を申し出ることができる。
ドイツの税理士による援助をまとめると下記のようになる。
・税務上の相談、代理代行、税務訴訟の代理
・税務手続きの処理、クライアントの納税義務履行の援助
・クライアントの会計義務履行の援助
・決算書及び貸借対照表の作成と税法的判断
・税務的刑事事件、制裁金の場合の援助
・その他経営アドバイス等の業務

(2)韓国の税務士

第1条(目的)この法律は、税務士制度を確立して税務行政の円滑な遂行及び納税義務の適正な履行を図ることを目的とする。
第1条の2(税務士の使命)税務士は、公共性を有する税務専門家として納税者の権益を保護し、納税義務の誠実な履行に寄与することを使命とする。
第2条(税務士の職務)税務士は、納税者の委任により租税に関する次の行為又は業務(以下”税務代理”という。)を遂行することをその職務とする。

租税に関する申告・申請・請求(異議申請・審査請求及び審判請求を含む。)等の代理
税務調整計算書その他税務関連書類の作成
租税に関する申告のための記帳の代行
租税に関する相談又は諮問
税務官署の調査又は処分等と関連する納税者の意見陳述の代理
その他第1号から第5号までの業務に附帯する業務

3. 納税者の権利擁護の明定の意義


現行法の解釈でも納税者の権利擁護は含まれていると見る見解があるが、成文法主義の我が国において、納税者等の立場から見て明定されているか否かは大きな要素となる。

法改正により租税訴訟における補佐人業務が追加されたことや、国税通則法改正により税務調査や国税不服申立ての代理人としての立場が強化されたことは、税理士の社会公共的役割として、納税者の権利利益を擁護することが期待されている表れと考えられる。こうした社会情勢の変化や、「納税者の権利利益の保護」は税理士の基本的役割の一つであり、これを明定するのが望ましい。」(金子宏「今後の税制のあり方と税理士が果たすべき役割」日本税理士会連合会「税理士制度70周年記念誌」2013)との指摘もあり、「納税者の権利擁護」を使命規定の中に明示することが必要である。

納税者の権利擁護が税理士の使命規定の中に明定されることにより国民納税者の税務代理人への信頼が増すものとなる。さらには国税通則法第1条に納税者の権利擁護を明定することにも通ずるものとなる。

4. 納税者の権利の内容


(1)OECDモデル

2003年にOECDは納税者の権利憲章の指針として「納税者の権利と義務-実務覚書」を公表しているが、この覚書では、ほとんどの納税者権利憲章は法律に根拠を持ちながらも、行政文書として制定されているといわれており、我が国でも、改正国税通則法に制定根拠を置き、国税庁長官が作成、公表することとされていた。2003年のOECDの覚書にある納税者権利憲章の例示(ガイドライン)は、次のとおりである。
納税者の権利
①情報提供や援助、聴聞を受ける権利
②不服申立の権利
③適正な税額以外を支払わない権利
④確実性の権利(事前通知や文書の記録)
⑤プライバシーの権利
⑥機密保持と守秘義務の権利
納税者の義務
①誠実である義務
②協力的である義務
③文書提出の期限を守る義務
④記録保存の義務
⑤期限納税の義務
⑥義務違反のリスク

(2)韓国の納税者権利憲章と米国の納税者権利憲章

①韓国の納税者権利憲章
根拠法:国税基本法第7章の2 納税者の権利(1996年新設、2010年改正)
第81条の2(納税者の権利憲章の制定及び交付)

1項 国税庁長は、第81条の3ないし第81条の16までに規定された事項その他、納税者の権利保護に関する事項を含める納税者権利憲章を制定し告示しなければならない。
納税者権利憲章(2007年改正)

納税者としてあなたの権利は、憲法と法律の定めにより尊重され、保障されます。
このため税務公務員は、納税者が正しい納税義務を信義に基づいて誠実に履行するように、必要な情報と便益を最大限提供しなければならず、納税者の権利が保護され実現できるように最善を尽くして協力する義務があります。この憲章は、あなたに納税者として保障される権利を具体的に知らせるためのものです。

①あなたは、記帳・申告等納税協力義務を履行していない場合か、具体的な租税脱漏の疑い等がない限り、誠実な納税者であり、あなたが提出した納税資料は、真実なものと推定されます。
②あなたは、法令に定める場合を除いては、税務調査の事前通知と調査結果の通知を受ける権利があり、やむを得ない事由がある場合には、調査の延期を申請する権利があります。
③あなたは、税務調査時、租税専門家の助力を受ける権利があり、法令に定める特別な事由がない限り重複調査を受けない権利があります。
④あなたは、法令で定めるところにより税務調査期間が延長される場合、その理由と期間について文書による通知を受ける権利があります。
⑤あなたは、自身の課税情報に対する秘密の保護を受ける権利があります。
⑥あなたは、権利の行使に必要な情報を迅速に提供される権利があります。
⑦あなたは、違法又は不当な処分を受けた場合や必要な処分を受けられず権利又は利益を侵害された場合には、適切かつ迅速な救済を受ける権利があります。
⑧あなたは、違法又は不当な処分により権利又は利益の侵害を受けることが憂慮される場合、その処分を受ける前に適法で迅速な救済を受ける権利があります。
⑨あなたは、税務公務員からいつでも公正な待遇を受ける権利があります。

国税基本法第7章の2 納税者の権利

条文タイトルのみを紹介するが、2009年に納税者保護担当官を統括する「納税者保護官」制度が導入されたことに伴い、第81条の16が追加されたので、該当条文内容も掲げておきたい。

第81条の3(納税者の誠実性の推定)
第81条の4(税務調査濫用権の禁止)
第81条の5(税務調査の際,助力を受ける権利)
第81条の6(税務調査対象の選定)
第81条の7(税務調査の事前通知と延期申請)
第81条の8(税務調査期間)
第81条の9(税務調査範囲拡大の制限)
第81条の10(帳簿・書類の保管の禁止)
第81条の11(統合調査の原則)
第81条の12(税務調査の結果通知)
第81条の13(秘密維持)
第81条の14(情報の提供)
第81条の15(課税前適否審査)
第81条の16(国税庁長の納税者権利保護)
①国税庁長は,職務を遂行するに当たり,納税者の権利が保護されかつ実現されるよう誠実に努力しなければならない。
②納税者の権利を保護するため,国税庁に納税者権利保護業務を総括する納税者保護官を設け,税務署及び地方国税庁に納税者権利保護業務を遂行する担当官を一人設ける。
③国税庁長は,第2項による納税者保護官を開放型職位として運営し,納税者保護官及び担当官が業務を遂行するに当たり,独立性が保障されるようにしなければならない。

②米国の納税者権利憲章

根拠法:1988年「納税者権利保障法」(内国歳入法)、1998年「IRS組織改革法」

納税者権利憲章(Taxpayer Bill Of RightsⅢ)(骨子のみ紹介)

納税者権利宣言
Ⅰ 納税者の権利保護―IRS職員の納税者の権利の説明と保護など
Ⅱ プライバシーおよび守秘義務
Ⅲ 専門的かつ礼儀正しいサービス
Ⅳ 代理権―専門家の助力を得る権利など
Ⅴ 適正税額のみの納付
Ⅵ 解決できない税務問題に対する支援―納税者擁護官による支援など
Ⅶ 不服審査及び司法審査
Ⅷ 一定の罰則規定の免除―IRS職員の誤指導や遅延など
税務調査、不服審査、徴収手続および還付手続
・税務調査―税務調査の選定など
・書面による調査―事前通知など
・面談による調査―調査の日時場所等、理由の説明など
・再調査―重複調査の制限など
・不服審査―IRS刊行物の紹介、不服申立の方法、挙証責任の転換、費用弁償など
・徴収―IRS刊行物の紹介、徴収処分、徴収手続の不服申立の権利など
・善意の配偶者の救済―夫婦共同申告の場合の善意の配偶者の救済など
・還付―IRS刊行物の紹介
・納税情報―電話・インターネット・FAX等での質問、IRS刊行物の紹介、小規模企業オンブズマン、税務行政監察官への通報など

なお、IRSの使命や上記納税者権利宣言は、IRS刊行物「納税者としてのあなたの権利(Your Rights as a Taxpayer)」として公刊されている。

【追記】20014年(平成24年)には、納税者権利章典が改訂されている。

5. 税理士法改正のグランドデザイン


魅力ある税理士像(制度)とは

法律家としての側面と中小企業の経営アドバイザーの側面を合わせ持つ職業専門家

・納税者の権利擁護ができること、経営のアドバイスができること
・ドイツのような税理士像-納税者の権利救済代理と経営アドバイザー
・税理士資格の自動資格付与ができないこと
・税理士の本来業務以外でも税理士が社会に貢献できること
・税理士になりたいという若者が増えるようになること

「論」税理士研修制度について

税理士研修制度について

(税界展望 第528号)2018年(平成30年)1月1日

(1)研修義務化について


税理士は、税理士法第1条の税理士の使命を達成するため、高度な見識と高い倫理観を保持しなければならない。税理士の研修受講義務化については、先の税理士法改正においては見送られたが、日本税理士会連合会において、国民・納税者の税理士及び税理士制度に対する信頼を確保する観点から、自らを律するため会則・規則等により、税理士会等が行う一定の研修を、一事業年度に36時間以上受講しなければならないとその受講を義務化した。(東京税理士会会則59条及び研修規則第5条)

一定の研修とは、全国統一研修会・登録時研修・公開研究討論会・税理士会、支部が主催又は共催後援する研修・税理士会等の関連団体の主催共催する研修・税理士会が認定した研修・そのほか税理士会が必要と認めた研修とされている。また研修科目については、
①税理士法その他職業倫理に関するもの ②租税法及び会計に関するもの ③公益的業務に関するもの ④情報処理に関するもの ⑤法律、経済、経営その他税理士の業務の改善進歩及び資質の向上に役立つと認められるものと規定されている。そのほか具体的な研修時間の取扱い・受講義務の免除・受講時間の申請及び通知・受講時間の公表などが規定されている。税理士会員には、「研修諸規則Q&A」や「研修ガイド」が配布されており、その内容が確認できる。

一事業年度36時間以上の研修の受講できなかった場合は、原則的には会則遵守義務違反となる。現在その遵守義務違反に対する罰則規定はない。

(2)研修受講の現状


一事業年度36時間以上の研修時間義務化は、平成27年度は、研修受講義務の周知徹底・平成28年度から施行された。東京税理士会の資料によれば、平成27年度の受講義務達成者数の割合は34.47%、平成28年度の割合は37.64%となっている。周知の効果があったのか多少増加した。平成29年度中間(9月)で受講義務36時間上達成者の割合は10.16%、平成28年度の中間は11.94%である。平成29年10月に受講時間が0.5時間から35時間までの会員に「平成29年度研修受講時間のお知らせ(中間通知)」を郵送した。

対象会員については、今事業年度残りの平成30年3月までに36時間以上を達成していただきたいとの趣旨である。平成29年9月末現在で、受講時間36時間以上達成の会員及び受講時間0時間の会員にはこの通知を省略した。達成した会員についての省略はいいとしても、中間で受講時間0時間の会員に何も通知しないのは如何なものかと考える。0時間の会員にも通知しその状況を把握する必要があるのではないだろうか。

①税理士会等が定める一定の研修は受講していなくとも、税理士法人等の社内研修又は市販のDVDの視聴などによる研修をしている場合。
その研修内容を確認することにより会員による自己申請(受講時間認定申請書)の提出ができる会員かもしれない。
②負傷又は疾病による療養などの理由・公職についている・議会の議員・出産、育児、介護その他の理由で研修受講ができない場合。
その免除申請を促すことができる。36時間受講義務達成者数の割合も大切だが、0時間の会員の存在も受講時間36時間以上を義務化した税理士会としては重要な問題である。
東京税理士会による会員研修会・支部主催の研修会・マルチメディアを利用した研修会・ブロック研修会・オープン研修会・税理士会の認定した研修会等のほか各種団体業者の開催する有料研修会など様々な研修会が開催されている。会員は研修会のテーマにより研修会を選び参加をしている。

(3)今後の研修会


現在は会員個人が研修会を選択し参加している。税理士会主催の研修会で、登録時研修のような全会員が受講する研修会が必要ではないか。同時期・同一テーマによる研修を受講することにより、会員全体の資質の向上と見識・倫理観を保持することが重要だと考える。例えば3年一巡の税理士証票確認時に、品位保持に関する研修会の受講を義務とするなど。個々の税理士が、毎年の税制改正について研修するのは当然であるが、同一の研修内容を、一定期間内にマルチメディア研修で全会員に受講させることにより、資質の統一及び研修内容に含まれる情報の共有が図られ、会員の資質に維持向上が図られるのではないかと考える。

研修受講義務の履行等に関する情報の公表は、平成30年度(平成30年4月1日から平成31年3月31日まで)の事業年度の研修受講時間等の情報が、平成31年10月1日に日本税理士会連合会のホームページ(税理士情報検索サイト)に掲載される予定である。研修受講義務の更なる周知とマルチメディア研修の視聴・研修受講義務の免除・受講時間認定申請等の内容を会員に広報する必要があると思われる。また認定研修の取扱いについても今後検討する必要があるのではないだろうか。

「論」マイナンバー制度の検証

(税界展望 第527号)2017年(平成29年)11月8日

Ⅰ 個人情報委員会報告


平成29年11月1日、個人情報保護委員会(日本の行政機関の一つ)は、「平成29 年度上半期(平成29年4月1日~9月30日)における個人情報保護委員会の活動実績について」を公表した。その内容について、以下の通りいくつかピックアップした。

1.漏えい等事案に関する報告の受付状況等について

委員会に直接報告された漏えい等事案は290件であった。これらの多くは、書類や電子メールの誤送付であり、その他の発生原因としては、紛失、インターネット等のネットワークを経由した不正アクセス等であった。

2.特定個人情報の漏えい事案等に関する報告の受付状況等について

特定個人情報の漏えい事案等の報告の受付273件のうち、重大な事態に該当するものは、①地方公共団体において、約250人分の給与支払報告書(マイナンバーを含む。)を紛失した事案、②民間事業者において、プログラムミスにより約800人分のマイナンバーカード等の本人確認書類の画像データを削除した事案、③民間事業者において、火災により約 260人分のマイナンバーが記載された書類を滅失した事案である。また、受け付けた漏えい事案等の報告のうち主なものは、特別徴収税額決定通知書の誤送付等(152件)によるものである。

以上の報告により、マイナンバーを含む特定個人情報の漏洩件数が昨年同時期に比べて大幅に増加していることが明らかになった。平成29年4月1日~9月30日の期間にて届け出のあったマイナンバーを含む特定個人情報の漏洩は、224機関、273件にのぼり、昨年同時期の、49機関、66件と比較して約4倍になっている。給与支払報告書の紛失や特別徴収決定通知書の誤送付152件についてやはりあるなと感じた。

この報告からマイナンバー制度に伴い、事業者の個人情報管理コストは増加の一途をたどるばかりだが、一度漏洩したとなれば、顧客への被害や事業者自身の信用が落ちるなど非常におおきなダメージとなるため、事業者にはさらなる、誤送付防止、不正アクセス対策等管理体制強化をはかることが必要になる。

Ⅱ マイナンバー制度までの経緯


マイナンバー制度制定の起源は少額貯蓄等利用者カード(グリーンカード)の導入にある。1980年代に導入が計画された納税者番号を割り振って利子・配当所得といった小額資産性所得に対する日本の総合課税制度において、本人確認のために納税者番号を記載したカードのことで、マイナンバーカードと同じような手法である。1980年3月には、グリーンカード制度の導入が制定されたが、郵政省、郵政族議員、金融業界、それに自治労などから反対の声があがり、1985年度に施行されることなく廃止された。

国民を番号で管理し、税金を補足するという、政府の連綿とした思いがある。その後グリーンカード制度廃止の反省を踏まえ政府は住民基本台帳カード制度の導入を検討した。この機会に住基ネットを構築しておいて、ゆくゆくは納税者番号とつなぎ、全国民の所得と納税額を把握しようという思惑は当然あったのであろう。

住民基本台帳カードの交付は、2003年(平成15年)8月25日に開始され2015年(平成27年)12月限りで発行を終了した。発行された住基カードは累計920万枚だが、紛失などを除く有効発行数は710万枚で、カードを持っているのは全国民のわずか5.5%にすぎない。衆議院議員河村たかし君提出住民基本台帳ネットワークシステムの「費用対効果」に関する質問に対する答弁書(平成19年2月20日)によると、構築費用に380億年間経常費用は190億と記されている。合算すると、13年間で2,850億円になるのかな?

しかし実際には、当時全国で約3,000強あった各地方自治体でも、それぞれ1,000万〜2,000万円ほどの初期費用と、年間数百万円の維持費がかかっている。そうした費用を合計すれば、これまでに日本中で1兆円近い税金が、住基ネットに消えていったのである。そもそも、『利便性』とは何なのか『マイナンバーがあればコンビニで住民票が取れる』と言うが、それは住基ネットでもできた。

Ⅲ マイナンバー制度の今後


時事通信は、導入コストについて「システム構築費などの初期費用2,700億円に加え、運用開始後も維持費などで年300億円程度が必要になる見通し」(29/5/2付)と報じている。更にマイナンバーの製造・発行等に283億円の費用も追加されている。マイナンバー制度の導入から、平成30年1月で丸2年になる。

現在、個人番号は社会保障や税の手続きで提示を求められる。マイナンバーカードの交付枚数等(平成29年3月8日現在)の公表があった本年3月8日現在で、番号カードの取得は1,071万枚、全国で人口に対する交付枚数率はわずか8.4%であった。管理システムの不具合もあって国内人口の8.4%程度と伸び悩んでおり、政府はカードの利便性向上などでマイナンバー制度の浸透を図っているが普及率の向上という成果は得られていない。12年間で5.5%の普及率の住基カードよりは1年間で8.4%の普及率のマイナンバーカードのほうが普及に対する成果があったのかもしれないが今後爆発的な普及はあまり望めそうもない。

制度の根底にある国民総背番号制による監視国家(古いかな)を国民は理解しているのか疑問であるが、どうも国民は利便性について関心がないようである。以前あった、電子証明書等特別控除のような、より多くのインセンティブがなければ普及は難しいのではないか。まあ、国民に番号を附番することが出来たのでカードの普及率の向上は必要ないのかもしれないですね。