(研修)「民事信託入門(自社株承継編)と緩和される事業承継税制」

/平成30年4月4日(水):於東京税理士会館

第1部「民事信託入門(自社株承継編)」玉川支部 菊地和仁
第2部「大幅に緩和された事業承継税制」について 本所支部 宮本雄司

 

第1部「民事信託入門(自社株承継編)」研修会講師を務めて 玉川支部 菊地和仁

今、ある種ブームとなりつつある民事信託について講師を務めさせていただいた。事前に昨年7月、徳田会長の事務所にて芥川副会長を講師として、第1回民事信託研究会を行いその後、9月に同じく徳田会長の事務所において、私が講師を務めさせていただき、第2回の民事信託研究会を行った。研究成果、参加者との意見交換を踏まえて、民事信託の中で特に自社株承継に絞って会員向けに研修会を行ってはどうか?ということになり、研修会を開くこととなった。民事信託は新しい分野であり、信託の複層化など税務的に評価の定まっていない分野については紹介するにとどめ、民事信託の基本を理解していただき、自社株承継の利用事例を中心とした研修会をすることとした。

実際の研修会で話をさせていただいことの中で、信託のごく基本的なことについて記載をしておきたい。

〇信託の基本

登場人物などと言う言い方をされるが、信託の話をする場合、委託者、受託者、受益者という三者が最低限登場人物として出てくる。

第1登場人物『委託者』 委託者とは財産を持っている人・預ける人。少し難しい言い方をすれば、財産を受託者に移転し、信託目的に従い受益者のために受託者にその財産の管理・処分などをさせる者ということになる。

第2登場人物『受託者』 受託者とは財産を管理する人・預かる人。少し難しい言い方をすると、委託者から信託財産の移転を受け、信託目的に従って受益者のために信託財産の管理・処分などをする者ということになる。

第3登場人物『受益者』 受益者とは利益を享受する人、預けられた財産から利益を得る人。少し難しい言い方をすると、受託者から信託行為に基づいて信託利益の給付を受ける権利と、このような権利を確保するため、受託者に対して信託違反行為の差止請求をする権利などを有する者をいうことになる。

最低限の登場人物が揃ったところで、そもそも信託とはどのように制度か?信託とは、委託者信託行為(例えば、信託契約、遺言)によってその信頼できる人(受託者)に対して、株式や土地などの財産を移転し、受託者は委託者が設定した信託目的に従って受益者のためにその財産(信託財産)の管理・処分などをする制度、と意義付けることができる。

〇信託の課税関係

信託における課税関係についても触れておきたい。『受益者課税を原則とする。』まずこの言葉を覚えておいていただきたい。信託をすると信託された財産の所有権は、委託者から受託者へ移転する。信託財産の所有権は受託者が有することになるが、課税上は、原則として受益者が信託財産を有するものと考える。つまり受益者課税となる。例外として、受益証券を発行する信託 受益者がいない、いなくなってしまった信託は法人課税信託となり、受託者を法人とみなし信託財産から生じる所得を申告する必要が生じる。注意が必要である。信託が終了する場合の課税関係は、財産が実質的に移転しているかどうかで考える。

〇信託財産の評価

信託財産の評価についても触れておきたい、元本と収益との受益者が同一人である場合は、相続税財産基本通達の定めるところにより評価した課税時期における信託財産の価額によって評価する。元本の受益者と収益の受益者とが異なる場合、これを信託財産の複層化と言う。信託を少し勉強すると必ずぶち当たる問題がある。それは複層化した信託をいかに評価すべきかという問題である・・・。

複層化信託の評価についての文言はごく簡単である、

・収益受益権(信託財産の管理及び運用によって生ずる利益を受ける権利)の評価・・・将来収益受益権者が受け取る各年の利益の額を現在価値に割り戻した金額の合計額。

・元本受益権(信託財産自体を受ける権利)の評価・・・『信託財産の評価額-収益受益権の評価額』となる。

将来収益を見積もるのが厄介であるがゆえにこの複層化した信託の評価の難しさがある。

〇信託の利用

さて、信託の利用方法についても触れておきたい。実際の研修会では信託組成の事例紹介に大きな時間を割き、具体的な文章事例に表をプラスしてまとめ話をさていただいた。以下に、信託の利用例ついて記載する。信託の多様性について、そんなことが考えられるんだ、と雰囲気が伝われば幸いである。

・信託を利用すると、遺言の欠点を補うことができる。

・信託を利用すると、子・孫の代以降30年先まで受益者等を指定することができる。

・信託を利用すると、会社の経営権を確保した上で株式を贈与することができる。

・信託を利用すると、成年後見制度と類似の効果を生むことができる。

・信託を利用すると、後戻りできるM&Aに利用することできる。など、など

信託には様々な利用方法が考えられ、『信託は想像である!』と言う専門家もいる。今後も研究を続けて機会があればまた報告をしたいと思っている。

 

第2部「大幅に緩和された事業承継税制」について 本所支部 宮本雄司

 

平成30年4月4日(水)、東京税理士会館に於いて参加者多数の中、盛大に開催された研修会の一部を抜粋し、「大幅に緩和された事業承継税制」について以下記述する。

平成30年度税制改正の中でも目玉とされている事業承継税制について

1.ここ数年における改正点の確認

2.今回の平成30年度改正の主な内容

3.新制度を使う場合の手続的な注意点

4.クライアントへいかに提案を行うべきか

5.補助金制度について

といった内容の研修会であった(講師:宮本雄司)。当日は多くの税理士会員が集まり、会場は熱気を帯びていた。

1.事業承継税制・主な改正の経緯

 

平成21年度改正で創設された事業承継税制は、その後平成25年度改正(親族外承継の適用可、雇用8割維持要件の緩和などがあり、施行時期は平成27年)、平成27年度改正(贈与税の納税猶予・免除制度の拡充)、直近では平成29年度改正(相続時精算課税制度との併用解禁など)として幾度となく見直しが行われてきた。

こうした改正が重ねられてきた背景として、ここ20年の間に中小企業の経営者の高齢化が進み、しかも後継者が未定とされている企業が多いとされる。このままでは中小企業の廃業が増加してしまい、日本経済を底辺で支える中小企業の技術やノウハウが途絶えてしまう危険性がある。

それに対する対応がまさに緊急を要しており、そのための対策が平成30年度の事業承継税制の改正の大きな特徴である。

2.平成30年度事業承継税制・改正の内容

(1)対象株式について

相続税・贈与税ともに、事業承継税制の対象となる株式は、その法人の発行済株式総数の3分の2が限度であったが、今回の改正でその発行済株式総数の全株数が対象となった。

(2)納税猶予の対象となる評価額

相続税においては、納税猶予の適用対象となるのは、その評価額(課税価格)の80%相当の金額に対応する相続税額だったが、今回の改正で課税価格の100%、つまり評価額の全部について、その対応する相続税が納税猶予の対象となった。)(措法70条の7の6参照)

(3)承継パターンの拡充

これまでは、相続又は贈与による事業承継は、1人の先代経営者から1人の後継者への承継というパターンのみであったが、今回の改正により親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継について、納税猶予・免除制度の適用が可能となった。(「措法70条の7の5参照」

(4)雇用確保要件の実質撤廃

贈与又は相続が発生してから5年間(事業承継期間)で平均の従業員数が80%を下回った場合は、納税猶予が取消となり、猶予されていた税金を納付しなければならないとされていたが、今回の改正でこの要件が実質的に撤廃された。

(5)経営環境の変化に応じた減免制度

事業承継後に、廃業を余儀なくされた場合や事業を売却することとなった場合において、その廃業時又は売却時の株価を基に納税額を再計算し、事業承継時に計算された納税額との差額が減免されることとなった。

(6)相続時精算課税制度の適用範囲の拡大

従来、相続時精算課税制度は、60歳以上の父母や祖父母から、その推定相続人や孫への贈与が想定されていたが、今回の改正により、受贈者側の対象者を推定相続人や孫以外の第三者にも広げることとなった。(措法70条の2の7参照)

また、これらの改正は、平成30年1月1日から平成39年12月31日までの間の贈与等により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用する。

 

3.手続的な注意点について

今回の特例制度の適用を受けるためには、平成30年4月1日から平成35年3月31日までの間に、都道府県に対し、「特例承継計画」を提出することが出発点となる。なお、この「特例承継計画」は認定経営革新等支援機関の指導・助言のあるものでないと提出ができない。

実際の株式の贈与があった場合、その贈与日の翌年1月15日までに都道府県に対して認定申請を行い、同年3月15日を提出期限とする贈与税の期限内申告書には、その申請後に都道府県から交付される認定書類を添付する必要がある。

その贈与税の期限内申告書の提出期限の翌日から5年間は「経営承継期間」と呼ばれ、この5年間は毎年一定の時期に、都道府県と税務署に対して、事業継続等についての報告が義務付けられる。

相続税についても同様の手続きを必要とする。

 

4.クライアントへいかに提案すべきか

まず、この特例制度に適している会社を見極める必要がある。具体的には、意欲と責任のある後継者が確定している会社、黒字基調で財政状態がよい会社、今後業績が右肩上がりとなり株価上昇が予想される会社等が適していると考えられる。そしてこうした会社には、まず提出期限が定められている「特例承継計画」の早めの提出が必要であることをアドバイスする必要がある。

また、株式を引き継ぐ後継者には、事前に役員登記されている必要があるなどの要件があるため、注意が必要である。

そして、この特例制度を適用するにあたっては、生前贈与からスタートするべきだと考える。理由としては、贈与税の納税猶予に相続時精算課税制度の併用が認められたこと、特例制度の適用を受けて、「経営承継期間」に入った後に取消事由によって納税を余儀なくされた場合に、納税額を相続時精算課税制度との併用とすることで、納税額を少なく抑えられる効果があるということが挙げられる。

生前贈与、つまり先代経営者が存命中に対策を講じておくことが、後に税負担が発生した場合を考慮すると望ましい。いずれにしても、今回の平成30年度改正は大変大きな改正であり、中小企業にとって将来の納税不安を大幅に軽減するものとして、是非活用して頂きたいと考える。

またクライアントへの提案をする上では、遺留分という問題にも留意しなければならない。承継者が、承継者ではない他の相続人から遺留分の財産返還を求められた場合、自社株が分散し、不安定な状態となりかねない。そのための事前策についても考えておかなければならない。例えば、こうしたリスクを回避するため、遺留分に係る民法の特例についても検討する必要がある(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律第三条~第十条)。

 

5.補助金制度について

平成29年度に創設された事業承継補助金については、今年度は2億円から30億円に増額された。補助金の公募に関する情報が近日中に公開される予定である。是非その内容を確認して頂きたい。

<参考ホームページ>

平成30年度税制改正(中小企業・小規模事業者関係)の概要

http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/2017/171225zeiritu.pdf

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