(研修)税理士制度と納税者の権利擁護 ~税理士制度のグランドデザイン~

/平成29年7月22日(土)於:全理連ビル

1. 税理士法と納税者権利擁護の関係


1)税理士の使命

第一条  税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。

(2)税理士の業務

(税務代理)
第二条  税理士は、他人の求めに応じ、・・・・・次に掲げる事務を行うことを業とする。
一  税務代理(国税不服審判所を含む。)に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立てにつき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行することをいう。
以下略
(出廷陳述権)
第二条の二  税理士は、租税に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述をすることができる。
2  前項の陳述は、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。ただし、当事者又は訴訟代理人が同項の陳述を直ちに取り消し、又は更正したときは、この限りでない。

3)調査の通知

(調査の通知)
第三十四条  税務官公署の当該職員は、租税の課税標準等を記載した申告書を提出した者について、当該申告書に係る租税に関しあらかじめその者に日時場所を通知してその帳簿書類を調査する場合において、当該租税に関し第三十条の規定による書面を提出している税理士があるときは、併せて当該税理士に対しその調査の日時場所を通知しなければならない。
2  前項の場合において、同項に規定する申告書を提出した者の同意がある場合として財務省令で定める場合に該当するときは、当該申告書を提出した者への通知は、同項に規定する税理士に対してすれば足りる。

(4)税理士業務の制限

第五十二条  税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。

2. ドイツ・韓国の税理士制度と納税者権利擁護


(1)ドイツの税理士

①税理士の使命
ドイツ税理士法では、日本の税理士法のような「使命」規定はないが、税理士法の権利と義務の規定の中で次のように規定されている。
第3章 権利と義務 (一般的な職業上の義務)
第57条 税理士及び税務代理士は、独立して、自己の責任において、誠実に、職業上の秘密を守り、かつ、職業に反する広告をすることなく自己の職業を行わなければならない。
②税理士の業務
ドイツの税理士法では、税理士の業務について、税理士法第1条で以下のように定めている。
第1条 適用範囲 本法は、下記の内容の援助を規定する。
一 連邦税務局・州税務局の管轄で、連邦・欧州経済領域法の法律に規定される租税や補償に関する事務
二 不動産取得税、物税に関する事務
三 州法に規定される税務に関する事務
四 専売に関する事務
五 連邦財務官庁又は州財務官庁の管轄するその他の事務のうち、連邦法財務法下のその他の事務のうち、連邦法や州税務局が管理する事務等
2.税理士の行う税務援助は、次のものを含む。
一 租税刑事事件及び税務違反による制裁金の場合の援助
二 会計,記帳、課税の面での申告書の作成に関する援助
三 還付請求や補償請求権に関する援助
3.代理人及び補佐人の許可に関する個別の手続規定は、その適用を妨げられない。
また、税理士の活動内容は、ドイツ税理士法第33条に以下のように規定されている。
「税理士及び税務代理士は、依頼者の委任の範囲内において、依頼人に税務についての助言をし、その者を代理する任務、税務事項の処理及びその者の税務に関する義務の履行にあたりその者に援助を為す任務を有する。租税刑事事件及び租税秩序違反を理由とする過料の際の援助、ならびに租税法に基づく記帳義務履行の際の援助、とりわけ税務貸借対照表の作成及びその祖税法上の判断も又、その任務とする。」
さらに、第3章の権利と義務では、訴訟代理引き受けの義務が規定されているのが注目される。
第65条 税理士は、財政裁判所法第142条に規定するところにより暫定的に無償で権利を擁護するために当事者の代理を命じられた場合には、財政裁判所の手続にもとづいて当事者の代理を引き受けなければならない。税理士は、この代理命令を取り消す重大な事由があると認めるときは、代理命令の取消を申し出ることができる。
ドイツの税理士による援助をまとめると下記のようになる。
・税務上の相談、代理代行、税務訴訟の代理
・税務手続きの処理、クライアントの納税義務履行の援助
・クライアントの会計義務履行の援助
・決算書及び貸借対照表の作成と税法的判断
・税務的刑事事件、制裁金の場合の援助
・その他経営アドバイス等の業務

(2)韓国の税務士

第1条(目的)この法律は、税務士制度を確立して税務行政の円滑な遂行及び納税義務の適正な履行を図ることを目的とする。
第1条の2(税務士の使命)税務士は、公共性を有する税務専門家として納税者の権益を保護し、納税義務の誠実な履行に寄与することを使命とする。
第2条(税務士の職務)税務士は、納税者の委任により租税に関する次の行為又は業務(以下”税務代理”という。)を遂行することをその職務とする。

租税に関する申告・申請・請求(異議申請・審査請求及び審判請求を含む。)等の代理
税務調整計算書その他税務関連書類の作成
租税に関する申告のための記帳の代行
租税に関する相談又は諮問
税務官署の調査又は処分等と関連する納税者の意見陳述の代理
その他第1号から第5号までの業務に附帯する業務

3. 納税者の権利擁護の明定の意義


現行法の解釈でも納税者の権利擁護は含まれていると見る見解があるが、成文法主義の我が国において、納税者等の立場から見て明定されているか否かは大きな要素となる。

法改正により租税訴訟における補佐人業務が追加されたことや、国税通則法改正により税務調査や国税不服申立ての代理人としての立場が強化されたことは、税理士の社会公共的役割として、納税者の権利利益を擁護することが期待されている表れと考えられる。こうした社会情勢の変化や、「納税者の権利利益の保護」は税理士の基本的役割の一つであり、これを明定するのが望ましい。」(金子宏「今後の税制のあり方と税理士が果たすべき役割」日本税理士会連合会「税理士制度70周年記念誌」2013)との指摘もあり、「納税者の権利擁護」を使命規定の中に明示することが必要である。

納税者の権利擁護が税理士の使命規定の中に明定されることにより国民納税者の税務代理人への信頼が増すものとなる。さらには国税通則法第1条に納税者の権利擁護を明定することにも通ずるものとなる。

4. 納税者の権利の内容


(1)OECDモデル

2003年にOECDは納税者の権利憲章の指針として「納税者の権利と義務-実務覚書」を公表しているが、この覚書では、ほとんどの納税者権利憲章は法律に根拠を持ちながらも、行政文書として制定されているといわれており、我が国でも、改正国税通則法に制定根拠を置き、国税庁長官が作成、公表することとされていた。2003年のOECDの覚書にある納税者権利憲章の例示(ガイドライン)は、次のとおりである。
納税者の権利
①情報提供や援助、聴聞を受ける権利
②不服申立の権利
③適正な税額以外を支払わない権利
④確実性の権利(事前通知や文書の記録)
⑤プライバシーの権利
⑥機密保持と守秘義務の権利
納税者の義務
①誠実である義務
②協力的である義務
③文書提出の期限を守る義務
④記録保存の義務
⑤期限納税の義務
⑥義務違反のリスク

(2)韓国の納税者権利憲章と米国の納税者権利憲章

①韓国の納税者権利憲章
根拠法:国税基本法第7章の2 納税者の権利(1996年新設、2010年改正)
第81条の2(納税者の権利憲章の制定及び交付)

1項 国税庁長は、第81条の3ないし第81条の16までに規定された事項その他、納税者の権利保護に関する事項を含める納税者権利憲章を制定し告示しなければならない。
納税者権利憲章(2007年改正)

納税者としてあなたの権利は、憲法と法律の定めにより尊重され、保障されます。
このため税務公務員は、納税者が正しい納税義務を信義に基づいて誠実に履行するように、必要な情報と便益を最大限提供しなければならず、納税者の権利が保護され実現できるように最善を尽くして協力する義務があります。この憲章は、あなたに納税者として保障される権利を具体的に知らせるためのものです。

①あなたは、記帳・申告等納税協力義務を履行していない場合か、具体的な租税脱漏の疑い等がない限り、誠実な納税者であり、あなたが提出した納税資料は、真実なものと推定されます。
②あなたは、法令に定める場合を除いては、税務調査の事前通知と調査結果の通知を受ける権利があり、やむを得ない事由がある場合には、調査の延期を申請する権利があります。
③あなたは、税務調査時、租税専門家の助力を受ける権利があり、法令に定める特別な事由がない限り重複調査を受けない権利があります。
④あなたは、法令で定めるところにより税務調査期間が延長される場合、その理由と期間について文書による通知を受ける権利があります。
⑤あなたは、自身の課税情報に対する秘密の保護を受ける権利があります。
⑥あなたは、権利の行使に必要な情報を迅速に提供される権利があります。
⑦あなたは、違法又は不当な処分を受けた場合や必要な処分を受けられず権利又は利益を侵害された場合には、適切かつ迅速な救済を受ける権利があります。
⑧あなたは、違法又は不当な処分により権利又は利益の侵害を受けることが憂慮される場合、その処分を受ける前に適法で迅速な救済を受ける権利があります。
⑨あなたは、税務公務員からいつでも公正な待遇を受ける権利があります。

国税基本法第7章の2 納税者の権利

条文タイトルのみを紹介するが、2009年に納税者保護担当官を統括する「納税者保護官」制度が導入されたことに伴い、第81条の16が追加されたので、該当条文内容も掲げておきたい。

第81条の3(納税者の誠実性の推定)
第81条の4(税務調査濫用権の禁止)
第81条の5(税務調査の際,助力を受ける権利)
第81条の6(税務調査対象の選定)
第81条の7(税務調査の事前通知と延期申請)
第81条の8(税務調査期間)
第81条の9(税務調査範囲拡大の制限)
第81条の10(帳簿・書類の保管の禁止)
第81条の11(統合調査の原則)
第81条の12(税務調査の結果通知)
第81条の13(秘密維持)
第81条の14(情報の提供)
第81条の15(課税前適否審査)
第81条の16(国税庁長の納税者権利保護)
①国税庁長は,職務を遂行するに当たり,納税者の権利が保護されかつ実現されるよう誠実に努力しなければならない。
②納税者の権利を保護するため,国税庁に納税者権利保護業務を総括する納税者保護官を設け,税務署及び地方国税庁に納税者権利保護業務を遂行する担当官を一人設ける。
③国税庁長は,第2項による納税者保護官を開放型職位として運営し,納税者保護官及び担当官が業務を遂行するに当たり,独立性が保障されるようにしなければならない。

②米国の納税者権利憲章

根拠法:1988年「納税者権利保障法」(内国歳入法)、1998年「IRS組織改革法」

納税者権利憲章(Taxpayer Bill Of RightsⅢ)(骨子のみ紹介)

納税者権利宣言
Ⅰ 納税者の権利保護―IRS職員の納税者の権利の説明と保護など
Ⅱ プライバシーおよび守秘義務
Ⅲ 専門的かつ礼儀正しいサービス
Ⅳ 代理権―専門家の助力を得る権利など
Ⅴ 適正税額のみの納付
Ⅵ 解決できない税務問題に対する支援―納税者擁護官による支援など
Ⅶ 不服審査及び司法審査
Ⅷ 一定の罰則規定の免除―IRS職員の誤指導や遅延など
税務調査、不服審査、徴収手続および還付手続
・税務調査―税務調査の選定など
・書面による調査―事前通知など
・面談による調査―調査の日時場所等、理由の説明など
・再調査―重複調査の制限など
・不服審査―IRS刊行物の紹介、不服申立の方法、挙証責任の転換、費用弁償など
・徴収―IRS刊行物の紹介、徴収処分、徴収手続の不服申立の権利など
・善意の配偶者の救済―夫婦共同申告の場合の善意の配偶者の救済など
・還付―IRS刊行物の紹介
・納税情報―電話・インターネット・FAX等での質問、IRS刊行物の紹介、小規模企業オンブズマン、税務行政監察官への通報など

なお、IRSの使命や上記納税者権利宣言は、IRS刊行物「納税者としてのあなたの権利(Your Rights as a Taxpayer)」として公刊されている。

【追記】20014年(平成24年)には、納税者権利章典が改訂されている。

5. 税理士法改正のグランドデザイン


魅力ある税理士像(制度)とは

法律家としての側面と中小企業の経営アドバイザーの側面を合わせ持つ職業専門家

・納税者の権利擁護ができること、経営のアドバイスができること
・ドイツのような税理士像-納税者の権利救済代理と経営アドバイザー
・税理士資格の自動資格付与ができないこと
・税理士の本来業務以外でも税理士が社会に貢献できること
・税理士になりたいという若者が増えるようになること

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